【ガンダムOO/MOON&SUN】
□慟哭
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その日おれは、初めて間近で人を殺した。
ハイスクールを卒業してすぐ、おれはとある軍の特殊部隊に配属される。
所謂傭兵部隊だ。
入ったばかりのおれには、そう出動命令がある訳でなく、空いた時間になんとか大金を稼ぐ方法がないか探していた。
そんな時、狙撃の腕を買われて紹介された仕事があった。
暗殺の仕事だ。
狙撃手(スナイパー)。
つまりは、殺し屋。
藁にもすがる思いで、おれはそれに飛びついた。
金が必要だった。
ライルの為に。
ライルのカレッジの学費と、生活費の為に。
ライルは自分もバイトするから無理に稼がなくてもいいと言っていたが、おれは大切な弟にしてやれる少ない行為として、金を稼ぎ仕送りしてやりたかった。
おれは狙撃手の仕事を誘ってくれた人物から、一人の情報屋を紹介される。
おれの仕事は、そいつから依頼を紹介されることになる。
とある下街(ダウンタウン)でそいつに初めて会った時、おれは妙な忠告を受ける。
この界隈には、頭のネジが取れたイカレた輩が何十人といる。
今度から此処へ来る時は、色眼鏡(サングラス)でもして顔を隠すんだな、と。
おれは、お世辞にも自分が強面だとは思っていない。
一般人が立ち入らないようなこの街で、柄の悪い連中から舐めてかかられないよう、少しでも顔を隠した方が無難だろう──と、その時はそう解釈した。
それから、おれは順調に暗殺の仕事をこなしていく。
獲物を狙うのはいつも長距離からだ。
至近距離で撃ったら、すぐに足が着いてしまう。
人の命を奪う仕事だというのに、おれはまるで遊戯(ゲーム)をしているような感覚でいて、人を殺してるという実感が湧かなかった。
傭兵の仕事もそうだった。
敵味方に分かれて、敵軍を殲滅する。
これは遊戯じゃない、まごうことなき殺しあいだと頭の何処かで解ってはいたが、感覚を麻痺させなければ、おれはやっていけなかった。
そして、ある日のこと。
おれは、いつものように情報屋から仕事の依頼を受け、すぐに下街から出ようと酒場をあとにした時だった。
街の破落戸(ゴロツキ)共とぶつかり、絡まれる。
厄介なことになった、とおれは内心舌打ちをする。
おれは酒場から離れた路地裏に連れ込まれ、襟刳りを捕まれ殴られる。
その時、弾みで色眼鏡が飛んだ。
おれの素顔が晒される。