【ガンダムOO/うたかた】
□雨
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灰色の雲に覆われた空は重く垂れ籠め、墓石の並ぶ厳粛な丘へ静かに雨を降らす。
傘を持って来るべきだったか。
今更気付いても遅いが、実のところどうでも良かった。
食卓に、よくこの花を生けていた。
母さんが早朝、庭から積んでくる花。
白い大輪の薔薇だ。
おれたち家族は、この花が好きだった。
だから、墓前にはこれを供えると決めていた。
ソレスタルビーイングに入ってからは身に付けることは控えていたが、この時ばかりは十字架のネックレスを身に付ける。
皮肉にも、父母の形見となってしまったもの。
テロ被害に遭い、唯一遺ったものだ。
花を手向け、おれは祈る。
父、母、妹の、安らかなる眠りを。
そして誓う、復讐を。
墓参りが済んで、近くの雑木林に身を潜める。
おれのあとから来たのはライルだった。
どうしてまた似たような時間に来るんだ?
一卵性双生児の所以か?
魂が、呼び合うのだろうか……?
もしそうだとしても、逢う訳にはいかなかった。
ライルに今なにをしてるか問われて、おれはどこまで嘘を突き通せる?
それに、決心が鈍るかもしれない。
たった一人生き残った大事な家族を独り残しておくことの苦しみが、おれを責めるだろう。
そういう訳にはいかなかった。
ライル自身は望んでないかもしれないが。
おれは、ライルの為にも進まなければならなったから。
暗雲から降り注ぐ水は、おれを薄情だと責めてるのだろうか?
それとも、墓前にて決意を新たにするおれへの洗礼か?
おれはシャツの下から十字架を取り出し、握り締める。
痛い程強く握り締めた所為で、血が滲んだ。
「……」
おれは今、一番逢いたいと思った者の名を呟いた。
「ロックオン・ストラトス、どうしたんだ?」
チャイムを鳴らすと、まだ幼さを残した少年が出迎える。
刹那・F・セイエイ。
二年前、若干14歳でソレスタルビーイングの一員になった、中東出身の少年。
おれとは違う、浅黒い肌に紅茶色の瞳の、エキゾチックな顔立ち。
「よお、元気か?」
それには答えず刹那は、
「濡れてるじゃないか」
と言い、自分の隠れ家に招き入れた。
「こんなところに、何かようか?」
「いや、ちょっとね……用事があって地上に降りたんだが。ついでというか、なんというか……」