【時空漂える泡沫・黄昏】

□涙
1ページ/4ページ

「ねえ……」
 毎度お馴染みの決闘をしたあと、楚良とクリムは木陰でくつろいでいた。
「あとどのくらい、こうしていられると思う?」
「なにがだ?」
 自分にも垂れかかる楚良の問いに、クリムは疑問を投げ掛ける。
「決闘してさ、こうやってのんびりすること。
「そりゃ、望めばその分続くだろう?」
「だよね……」
「……どうかしたのか?」
 クリムは怪訝に思う。
 楚良は暫く黙ってたかと思うと、
「あのさ……」
 遠慮がちに呟いた。
「もし、オレが放浪AIだっつったら、信じる?」
 その問いに、
「まさか」
 一瞬呆気にとられつつも、クリムは答える。
「そんなバカなこと、ある訳ないだろう?」
 楚良は草原を見つめたまま、クリムの声に耳を傾ける。
「おまえはカイトたちの活躍もあり、モルガナの呪縛から解き放たれた。
 自由になったんだ。
 もう、放浪AIである筈がない」
 聞き慣れた、僅かに掠れた低い声に耳を傾ける。
「おまえは自由なんだ」
「だよね」
 楚良は小さく呟く。
「そうだ」
「そうだよね」
 その声は、小さく震えていた。
「そうだ」
 クリムはもう一度、今度は力強く言葉を発した。
「おまえは自由だ」
 楚良はジッと、その言葉を噛み締める。
「でもね……」
 楚良は震える声で続ける。
「記憶がないんだ」
「なに?」
「最近になって気付いたの。
 オレ、現実(リアル)の記憶がない。ログアウトした後の記憶がないんだ」
「バカな……」
 クリムは呻いた。
 信じられない……いや、信じたくなかった。
 かつて自分が突き落とした少年は、ただの幻影だとでもいうのか。
「クリム……」
 クリムは黙っている。
「オレ、もうすぐ消される」
「……」
「わかるんだ。もうすぐオレは消えちゃうんだ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ