【刻まれし時空の痕跡・黎明】
□口移し
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ある時メールが届いていた。
『明日から出張だ。暫く会えなくなるな。
俺がいないからって悪さばかりするなよ?
じゃあな。』
それから一月後。
『一か月ぶりだな。
インフルエンザが流行ってるらしいが、お前は大丈夫か?
出張から帰ってきたばかりで、流石の俺も非常に疲れた。
今日は早目に寝るとするかな。
会えたら久々にやり合うか?
じゃあまた!』
「フンッ!」
そう言って楚良はメーラーを閉じた。
翌日、楚良はマク・アヌ散策する。
その次はドゥナ・ロリヤック。更に次はカルミナ・ガデリカ。
身軽かつ、用心深く街中を徘徊しつつ、漸く目的のモノを見つけ出した。
いや、人物か。
酒場のカウンターに座っているその人物に背後から近寄り、肩へと腕を回すと、楚良は、
「ちゃ、ら〜ん」
妙な擬音を口走った。
「オヒサ〜♪」
「楚良か」
そう言って少し肩越しに後ろを見やるのは、クリム。
「久し振りだな」
楚良の擬音を言いながらの登場が相変わらずだなあと思い、クリムは微笑を浮かべ言った。
「ねえねえ……」
楚良は多少投げやりな口調で言った。
「どれくらいぶりだっけ?」
「一月ぶりだと思うが?」
そう答えるクリムに、
「だよね〜」
と楚良はどうでもいい、という感じで言う。
と、
「だったら……」
左腕でクリムを抱き締めるようにしながら、右腕の双剣の刃を出し、クリムの眼前にちらつかせつつ、言った。
「しよ?」
「ここら辺でいいか?」
辺りを見渡しながら、クリムは言った。
場所は二人が時々利用する、とあるエリアサーバーのダンジョン。