三国志テキスト

□きっと、貴方だけ
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頭がぐらぐらする。

酒に弱い訳では無いのだが、相手が悪すぎた。


呂布は、張飛以上の酒豪らしい。


「劉備殿は案外飲めるようだな」

呂布の言葉が嫌味でないことはよく分かる。

「ご冗談を」

しかし何とか笑って答えるのが精一杯だ。

体が熱い。

考えてみれば、こんなに酒を飲んだのは久し振りだ。

呂布の敵意の無さに毒気を抜かれ、注がれるままに飲んでしまった。

「今日は泊まっていかれるが良い」

呂布はそう言って、ほんの少しだけ笑った。

その顔にまた、くらくらと目眩がする。
酒とは関係なく、己は酔っているのだ。

呂布奉先という男に。
雄々しく強いが、この乱世を生き抜いてきたのが不思議なくらい純真なこの男に。

服の上からでも分かる逞しい体付き。
見られただけで身が竦むような力強い目。
感情の表現が苦手なのか、微かにしか変化しない表情。
低く硬い声。

全てが、己を惹きつけて止まない。


何時からこんなことを思うようになったのだろうか。
 
そんなことをぼんやりと考えていると、隣に座っていた呂布に肩を抱かれた。

骨張った大きな手の温かさに、ますます酔う。

「何も分からなくなるほど酔えばいい」

たまには良いものだ、と促されて再び杯を手にする。

回された腕にどうやら他意は無さそうだ。

なるべく意識しないように努めながら、どうにでもなれと、半ば自棄になって杯に口を付けた。
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