三国志テキスト
□距離
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「関羽は、変わったな」
ぼんやりと遠くを見る目が掠む。
我ながら女々しい。
「変わったのは、兄者ですよ」
関羽はむくりと体を起こした。
背中に草が沢山ついている。
とても春とは思えぬ冷たい風が吹いて、長い髭を撫でていった。
「私が変わった、だと」
妻を娶りはしたが、自分自身に何も変化などない。
妻に対する情愛も芽生えぬまま、今はただ、流れ流れている。
「ええ。兄者は変わられました」
横を向くと、関羽はこちらを見ていた。
その目に、ほんの僅かな光を見つける。
久し振りに、戦の高ぶりとは別の熱を宿していた。
思わず心が踊る。
関羽が、戻ってきた。
「私を見る度に、何か戸惑っておられる。私が何か、しましたかな」
「それは」
お前のせいだ、と言いかけて、やめた。
顔を逸した勢いで、涙が一筋零れた。
「私が、何かしたんでしょうな」
関羽が腰を上げて近付いてくる。
体がぴたりとくっつくほど近くに、再び座った。
心臓がどきりと跳ねる。
「私が、泣かせてしまったのでしょうな」
頬を伝う涙を、関羽が親指で優しく拭う。
どうしていいか、分からなくなった。
「兄者」
関羽の掠れた声の後、抱き締められた。