三国志テキスト
□遠慮
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関羽が、きりっと太い眉をだらしなく下げて笑う。
徐々にその名を天下に知らしめつつある豪傑も、義兄の前では形無しだ。
「私は」
関羽はそう発して、乾いた唇を舐めた。
一呼吸おいて、再び低い声を出す。
「私は、兄者が好きなのです」
そう言ってこちらに向き直った関羽の真面目な顔を見て、劉備はぱちぱちと目を瞬かせる。
そして次の瞬間、体をのけ反らせて笑いだした。
「あははは!何だいきなり!」
関羽は、やっぱり、というように肩を落としている。
どうやらこの反応を予想していたらしい。
「兄者、私は本気ですよ」
「笑ってすまなかった」
劉備は咳払いをひとつして真面目な顔を作ったが、頬が緩むのを抑えられないでいる。
突飛なことを言われておかしかったのもあるが、それよりも嬉しかったのだ。
自分を慕っていると口にされて、気分の悪い者はいない。
関羽は溜め息をついた。
「私は兄者に、義兄弟以上の情を抱いているのです」
劉備は優しく微笑んで、二三度頷く。
どうも、自分の言っていることを理解していないようだ。
「私もそう思っている。嬉しいぞ、関羽」
「はあ」
関羽は天井を仰いで、静かに目を閉じた。