三国志テキスト

□遠慮
2ページ/5ページ

 
関羽が、きりっと太い眉をだらしなく下げて笑う。

徐々にその名を天下に知らしめつつある豪傑も、義兄の前では形無しだ。

「私は」

関羽はそう発して、乾いた唇を舐めた。

一呼吸おいて、再び低い声を出す。

「私は、兄者が好きなのです」

そう言ってこちらに向き直った関羽の真面目な顔を見て、劉備はぱちぱちと目を瞬かせる。

そして次の瞬間、体をのけ反らせて笑いだした。

「あははは!何だいきなり!」

関羽は、やっぱり、というように肩を落としている。

どうやらこの反応を予想していたらしい。

「兄者、私は本気ですよ」

「笑ってすまなかった」

劉備は咳払いをひとつして真面目な顔を作ったが、頬が緩むのを抑えられないでいる。

突飛なことを言われておかしかったのもあるが、それよりも嬉しかったのだ。

自分を慕っていると口にされて、気分の悪い者はいない。

関羽は溜め息をついた。

「私は兄者に、義兄弟以上の情を抱いているのです」
 
劉備は優しく微笑んで、二三度頷く。
どうも、自分の言っていることを理解していないようだ。

「私もそう思っている。嬉しいぞ、関羽」

「はあ」

関羽は天井を仰いで、静かに目を閉じた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ