三国志テキスト

□求愛
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劉備軍が、曹操の元に身を寄せていた時のこと。

邸を与えられ厚遇されていた劉備は、毎日のように付き纏う曹操の傍若無人な態度に悩まされていた。

今日も呼び出しをくらってしまい、今から出掛けねばならない。

「では行ってくる」


邸の下働きにそう伝えて玄関を出ると、待構えていたかのように門前に関羽が立っているのが見えた。

参ったなぁと頭をかきながら、門の方へ向かう。

関羽はどこか、思い詰めたような顔をしていた。

「兄者。また曹操の所へ行かれるのですか」

「関羽。場所を弁えよ」

邸の中ではまだしも、曹操の目が光っている場所で彼を呼び捨てにするのは良くない。

きっ、と鋭い目で見据えると、関羽は素直に頭を垂れる。

「すみませんでした」

しかしその目は、静かに抵抗していた。

劉備は困ったように笑う。

「関羽。そこを退いてくれ」

「嫌です」

何時もとは違う、頑な態度だ。

何かあったのかもしれない。

一瞬、曹操の呼び出しなど無視してしまえという悪魔の囁きが脳内を支配した。
 
一瞬のことだった。

「関羽。私はしがない客将だ。曹操殿に逆らう権利などないのだ」

「では私もお供させて下さい」

関羽はなかなか引き下がろうとしない。

しばらく迷ったが、これといって断る理由もないので小さく頷いてみせた。

「くれぐれも曹操殿の機嫌を損ねぬように。よいな」

「はい」

こうして、二人で曹操の元へ行くことになった。
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