噺
□天使と悪魔5
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「どういう意味だよ、それ!」
神の胸ぐらを掴み上げる。何かの冗談だと思いたかった。
「フェンが天使じゃないって…」
「悪魔でもない。」
「………は?」
天使でもなく、悪魔でもない?
「…待って、今整理するから」
手を放して顎に手をあてる。天使でも悪魔でもないとなると、あと思い付くのは1つしかない。
「じゃあ人間、ってこと?」
だが、人間が天界に入れるハズがない。生身で天界の門を潜[くぐ]ることは出来ない。当然冥界の門も潜ることは出来ない。
「人間だってなら、どうやって天界に入ったのさ。」
「普通なら寿命が尽きた時のみ門が開くのだが、時々うっかり紛れ込んで来る者がいる。」
「待ちなよ、何、そのうっかりって。」
明後日の方向に神の目が泳いだ。レノは少し頭痛がした。
「門番に仕事させなよ。」
「我がやった方が早い。」
なんとなく、天界の住民が平和呆けしている原因が分かった気がした。神自らがなんでもやっていれば完璧に決まっている。が…。
「一人でやってるからうっかりなんか起きるんだよ」
なんとなく、神にも自覚はあるらしい。
「…話、戻して。」
「どこまで話した」
「紛れ込んで来る奴がいる、って所まで。いきなりボケないでくれる?」
「その紛れ込んで来た一人がフェンだ」
華麗にスルーされ、しかも色々すっ飛ばして結論を言われた。ちゃんと説明しようと思っていないのか、この神は。
「突っ込みたい所がありすぎて涙ちょちょ切れそうだけど、今はいいよ。で、何かそれで問題があるわけ?」
「それがあるんだよ、少年。」
突然の第三者の声にレノが過剰に反応した。
「ちょっとォォォ、いきなり人の背後に立たないでよ!」
「あぁ、ごめんごめん。」
爽やかオーラ全開の笑顔で歯がキラリと光った。レノの知らない顔だった。
「誰、おじさん。」
「僕はクリムト。フェンのパパだよ。」
「へぇ〜、フェンの。…って、フェンのッ!?」
目が飛び出るんじゃないかというくらいレノが目を見開いた。
「いつ来た」
「悪魔でもない、あたりかな。ちゃんと説明しなきゃ駄目じゃないか」
「任せる」
「君はまったく…」
「何、仲悪いの?」
二人のやり取りをニヤニヤしながら見ていたレノが口を挟む。
その顔を見て、神はレノが悪魔だったことを思い出した。
「え、僕たち仲悪いのかい?」
「知らん」
一言でバッサリ切り捨てた。
神の弱味というか、弱点的なものを見つけたレノは後で詳しく調べてみようと思った。なんたって彼は悪魔だ。ろくな事には使わないだろう。
「あれ、父さん?」
話題のど真ん中にいる人物、フェンがアルミナと共に現れた。
「どうしたの?」
「神様にちょっとね。」
「…また何かご迷惑をかけに来たんじゃないよね?」
「また?」
アルミナが首を傾げて問う。
「何言ってるんだいフェン。そんな事あるわけないじゃないか。」
「研究に没頭したら父さん何するか分からないじゃない。前も神様の生態系を解析するんだーってとんでもない事言い出したし。」
「それは研究者としての血がね…!」
「聞きません。」
何をしでかしたんだフェン父。かなり気になるところだ。
「で、何の話をしていたの?」
「フェンの事。」
ちょ、おま…!?
神とレノが同じような顔をした。
「…どうした、二人共。」
空気的な存在だったアルミナが口を開いた。彼女は何かを感じ取っているようだ。
「「………」」
二人は沈黙の上、目を反らした。
「私?」
「そう。フェンの事。」
「どんな事を話してたの?」
「ん〜、その前に、お母さんに会いたいかい?」