徒然文章

□小説集
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例えば。

例えば、自分が今死んだら、どれくらいの人が悲しんでくれるんだろう。






「たとえば、さー」
「あ?」

学校からの帰り道、2人で安いアイスを食べながら話す。

「もし、あたしが男だったらどうする?」

突拍子もない話だと、思ったんだろう。

目の前の男は、アイスを食べながらこちらを見ている。

「……何言ってんのお前」

そしてようやく出てきた言葉は、そんなごく当たり前な答えだった。

「えー?だってさぁ」

自分もアイスをかじりながら答える。

「もしあたしが男だったら、あたしらって付き合ってないわけじゃん?」
「あー……確かにそうだな」

何でそんな興味なさそうなの。

どうせしょうもない話とか思ってるんだろうけど。

「それって、すごい奇跡だなーって思って」

一瞬、彼のアイスを食べる手が止まる。

そしてその一瞬の後、ふと笑って答えた。

「……運命って言ってよ」

あたしの大好きな、あの笑顔で。

「男のクセにロマンチストな」
「男はみんなロマンチストなんだよ」
「それって女の方じゃないの」

こんなくだらない会話でも、幸せだと感じることができる自分はやっぱり幸せだ。







「たとえば、さ」
「また例えば?」

最後のアイスを食べきって、呆れたように言う彼。

「たとえば……あたしが死んだら、泣いてくれる?」

今度は、彼の足が、止まる。

その顔は驚いたような呆れたような、複雑な表情をしていた。

彼は何も言わずに歩き出して、あたしを追い越す。

そしてアイスのゴミをゴミ箱に投げ捨てながら、一言。


「……泣くに決まってんだろ、バーカ」

そう言った彼の背中が少したくましく見えて、ちょっとだけ嬉しかった。

こんな風に自分を思ってくれる人がいて、自分は幸せだと、実感できたある夏の夕方。

Fin.

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