☆趣味小説(バテン)☆

□『兄妹と将軍』
1ページ/2ページ


最近、帝国軍士官である一人の女性と初めて話をした。
彼女はまるで貴族の様に美しく気高く可憐だった。

赤み掛かった長い茶髪の髪からは薔薇の様な甘い香りがして、甘い物好きな私は多少吸い寄せられる様に前に出た。
話掛けて来たのは彼女からで、彼女は「これはこれは将軍陛下、」と深々にお辞儀をする。その動作も美しくて、何故かこう…ミローディア様にはない大人っぽさというか、強かさというか…とにかくそんなものを感じた。

お辞儀を終えた彼女と向かい合うと、身長が彼女の方が大きくて少し眉をひそめながら私も軽くお辞儀をする。

美しい方だなぁ、とか脳内で思わず笑顔になったはまた別の話だ。

「将軍には、兄が大変お世話になっているらしいですね。」

「はい?」

「あら?将軍はご存知のはずですが…、士官のスキードという男なのですが。」

一瞬、一瞬だ。
その名前を聞いた瞬間、ものすごく背筋に悪寒が走った。

「私はスキードの妹のウ゛ァレイと申します。直接お話出来て光栄ですファドロ将軍。」

嗚呼。


「そ、そうですか、あの変た…じゃなくてあのスキードさんの、妹さんでしたか、はは。」

「はい。兄をこれからもよろしくお願いします。」

嗚呼何て、この世界はこんなにも無情なのだろう。
この美しい女性が、まさかまさかのあの変態の妹だなんて。

まだ少し遠くの方から自分を呼ぶ声がする。
眉間に皺を寄せて見やれば、スキードその人が今まさに走り寄って来るところだった。

その姿と、目の前の女性を交互に見る。


(確かに似てるじゃないか!)


その女性を「美しい」と思ったはずだったのに、その美しさがスキードと同じ遺伝子だとするならば、私は根本的に…スキードを「美しい」と思った事にもなるのか。それはかなりの屈辱だ。

ん、遺伝子?
スキードの変態の遺伝子がこの女性にもあるとするならば。

こんなところでスキードが走り寄って来るのをこの女性と待っている場合ではない。
選択肢など一つしかないではないか。

「あ、将軍!?まだお話を…」

「ファドロ将軍!ちょっと待って下さいよー!!」

二人からほとんど本能的に、

私は

猛ダッシュで、

逃げた。










おわり


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ