小説
□「明智の誇り」
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「人をもって城を為す、良い家臣を持つことは上様へのご奉公でございます」
「なにおっ……!!!!こやつ!!」
───ドカッ…!!!
「…───っ……!」
──ガタン…ッ!!!
ほんの一瞬の出来事だった
視界が天井を仰ぐ
きっと顔を足蹴りされたのだ
地面に顔を叩きつけ鈍い痛みを感じる
「予の言うことが聞けぬのかっ!!!」
──ドカッ……ドカッ!!!
「……─っ…!!っ…!」
何度も何度も顔を足蹴りされ
光秀の這い蹲る地面には己のであれう血が流れていた
口が散々に切れている
「立て!光秀!」
「………っ…!!!」
「こやつ…!!!この信長に能弁を…!憎き面かな!!!」
信長はふいに長槍に目をやり
手にかける
そして穂の先を光秀の首筋の皮膚にひたりと押し当てた
「…………………!!」
光秀は荒い息をしながらまた起き上がるり正座をする
「命ごいをしろ…っ!!」
「……………!」
頭を下げ詫びを入れる
「命が惜しくないか……っ!!」
信長の額には青筋が浮き上がっていた
今にも首を跳ねてしまいそうな勢いである
光秀は黙ってただ口を固く結び耐えている
口の中は血で赤く染まり鉄の味が濃い
「予の命令だ!!!それを聞かぬのならばうぬは死ぬぞ」
最終通告だった
「………っ!それがしの大事な家臣でございまする…………っ!!たとえこの首
が飛ばされようとも…上様のご意向を聞くことは……っ!」
光秀は地面に向かって叫んだ
涙が一筋に落ち、
血溜まりと滲んだ
「………───!」
──ガチャン…ッ!ゴト…ッ!
長槍がすぐ横に転がり落ちてくる
「…………───」
─ カチ…
微かに鞘に手をかける音がした
その音に光秀はとっさに瞳を閉じる
己の最後を悟った
「──上様…っ!!!」
いきなり傍にいた直属の家臣達がわっと信長を取り囲む
「抜打ちはなりませぬ…っ!!!」
「どうか気をお沈み下さいませっ!!」
光秀は自分がまだ生きてることを実感した
すると光秀の家臣二人がやってくる
気づけば両脇にいる
両肩を抱きかかえ光秀を持ち上げながら足早にその場を退出した
信長は顔の肉が崩れそうほど連れていかれる光秀を睨みつけた
「よを愚弄するか!!光秀っ!!」
「上様の為でございます」
傍にいた宿老が宥めた
「─────殿─…!」
自分の主君が惨い姿で戻ってきた
控え室で一部始終聞いていた今回の揉め事の対象物となった斎藤利三は涙をポロ
ポロと流しながら主人を迎える
「───殿─…!よ、よく……お耐えあそばしました…!そ、それがしの為に…っ!
!」
嗚咽を繰り返しながら震える体で何度も光秀に頭を下げる
己の為に命を捨ててまでも離そうとはしなかった光秀の志しに胸を打たれ、感動
したのだ
周りの家臣達もその姿に涙を堪える
「面を上げなさい。利三。」
光秀は当たり前のことをしたまでだった
「………殿……っ!」
「それがしはそちを離すつもりはない。それだけは言っておこう」
「──……一生…!!お供させて頂きまする……っ!」
光秀もその言葉に深く感激し目を揺るがす
利三はかすれた声で何度も殿と呼び続けた
周りの家臣達も涙を我慢することが出来なかった
一族よりも深い絆がここに生まれた
_終
斉藤利三は山崎の戦い敗北後、
捕えられ首を取られるが、主への忠誠は最後まで覆さなかった。
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