□虚無の使い手と砂漠の魔術師
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幸いにも周囲には未熟すぎる子供たちばかり。


特に警戒すべきは2人。


あの男と、生徒の中にいる青い髪の少女。


万全ならばレオの敵ではないのだが。


「お、お待ちください」

だが、男の方がレオの思考に待ったをかける。

「私の名はジャン・コルベール。どうか、お話を……」

それは生徒を守る行為なのだろう。

レオの実力を瞬時に把握し、生徒に被害が及ばないように。


あわよくば、レオを使い魔として少女……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに仕えさせるために。


「……フン」

戦闘にならないのならば、レオとしてもありがたい。体力の消耗を防げる。

「懸命な判断だ」

余裕を見せつけるために笑みを浮かべ、レオはナイフをしまった。

しかし警戒は続けたまま。

「ええと……まず、ミスタ……」

「レオ。ファミリーネームはない」

「ではミスタ・レオ。あなたはどちらから……」

「各地を旅している。……それにしても、ここはどこだ?」

もちろんコルベールから“教えて”もらっているが、聞いておかなければ怪しまれる。

「ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院です」

「トリステイン魔法学院……なるほど、一人前になるための使い魔の儀式か。先ほども言ったが、使い魔になる気は毛頭ない」

「そんな!」

叫んだのはようやく立ち上がったルイズだった。

「やっぱりゼロのルイズだ」

「ゼロのルイズが平民を呼び出した」

「しかも使い魔になるのを断られている」

生徒の数名が口ぐちに茶々を入れてくる。


その渾名の意味に関しては一笑するが、今はその時ではない。


「しかし……コントラクト・サーヴァントを知っているなら、その重要性も……」


そこで、レオは自分の勘違いに気付いた。


ここは貴族社会。

平民であるレオの意志というものは、容易く無視されるのだ。


この中にも、平民だからという理由で好きにしていいのだと考えている連中がいる。


つまり、誘拐だ人権を考えろを訴えても意味がないのだ。


「……くどい」

だから、レオはそれ以上の話し合いを放棄した。


しばらくは体を休め、体力が戻ったら元の場所に帰ればいい。

魔術を使わなくても、この場を切り抜けられる方法はいくらでもある。


「生憎、俺は機嫌が悪いんだ。突然こんな場所に呼び出されて、無理矢理使い魔のルーンを刻まれて……それで簡単に了承すると思うか?」


気に食わない。

加えて言うなら、こちらを覗き見している何者かも気に入らない。


「どけ。今のうちなら、こちらも手を出さないでおいてやる」

殺気を抑えず、1歩前に出る。

それに怯み、コルベールは思わず1歩後退してしまった。


「……いやよ!」


そんな中で叫んだのはまたもやルイズだった。

「私が呼び出したのよ! 私が呼び出したんだから!」

初めて成功した魔法。

それで呼び出したのが平民だとしても、自分の魔法が成功した証しがなくなってしまうのが嫌だったのだろう。

「ミス・ヴァリエール! 使い魔の儀式ならもう1度……」

一方、コルベールはレオの『本気』をすぐに察した。いや、察してしまった。


この場から逃げるため、実力行使も厭わない。

そうなれば生徒に被害が及んでしまう。


「コントラクト・サーヴァントは神聖な儀式のはずです! やりなおしなんて出来ません!」


必死にレオに縋るルイズ。


その姿が、かつてのミレイに重なった。


「……チッ」

自分でも甘いと思う。

昔なら問答無用で払いのけていたというのに。


年を取って甘くなったのかもしれない。


「……気が失せた」

殺気を消す。

「代わりに、学院長に会わせてもらおうか。対応次第では、雇われてやっても構わんが」

使い魔は御免だが、雇用ならまだ別だ。













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