海の包容

□すばらしきこの人生U
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頭痛がして、沢山の映像が流れ込んでくる。

「うぁぁぁぁぁ!」

たまらずに俺は頭を抱えて叫んだ。

「はぁ……はぁ……」

それから納得する。

「そうか……オレが取られていたのは……記憶……」

このゲームのエントリー料として取られていたのが、記憶。

だから名前以外思い出せなかったのだ。

「その通り。記憶とは人物のアイデンティティを構築するための最も重要な要素だ。エントリー料として実に相応しい、そう思わないか?」

目の前のグラサンをした男……北虹は相変わらず笑みを浮かべている。

死神のリーダー……指揮者であり、現在進行形で渋谷のコンポーザーとゲームをしているはずだ。


「……おい、足りないぞ。俺の死に際が……。そこだけ無い……」


ぽっかりと、そこだけの記憶が空いていることに気付き、俺は北虹を睨んだ。

宇田川町で壁グラを見て、それからが思い出せない。


いや……。
思い出せないんじゃない、取られたんだ。


「ほう……それは興味深いな……。が、しかしゲームとは無関係だ。君の死に際の記憶を奪っても私には何のメリットも無い」

「そう……だな……」


まさか……取ったのは……奴、か?

……かなり不本意だが、巻き込まれた以上対策を練らなくてはいけない。


「さて、次に……君の新しいエントリー料だが……」

「また記憶を取るのか!?」

冗談じゃない。

また記憶を取られてしまっては何も出来ない。

「最も大切なものをエントリー料として徴収する。それがこのゲームのルール。君のエントリー料はすでに徴収しておいた」

「何!?」

俺に心当たりは無い。

「それは………美咲 四季」

「なっ!そんな馬鹿な!」


四季が……俺の最も大切なもの!?

嘘だろ!?

いつの間にか四季を最も大切に思っていた!?

俺に大切なものはないはず。

せいぜい今までの記憶くらいだった。

なのに……

「俺が……?」

にわかには信じられなかった。





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