海の包容
□すばらしきこの人生 第一部
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頭痛がして、沢山の映像が流れ込んでくる。
「うぁぁぁぁぁ!」
たまらずに俺は頭を抱えて叫んだ。
「はぁ……はぁ……」
それから納得する。
「そうか……オレが取られていたのは……記憶……」
このゲームのエントリー料として取られていたのが、記憶。
だから名前以外思い出せなかったのだ。
「その通り。記憶とは人物のアイデンティティを構築するための最も重要な要素だ。エントリー料として実に相応しい、そう思わないか?」
目の前のグラサンをした男……北虹は相変わらず笑みを浮かべている。
死神のリーダー……指揮者であり、現在進行形で渋谷のコンポーザーとゲームをしているはずだ。
「……おい、足りないぞ。俺の死に際が……。そこだけ無い……」
ぽっかりと、そこだけの記憶が空いていることに気付き、俺は北虹を睨んだ。
宇田川町で壁グラを見て、それからが思い出せない。
いや……誰か……少年が来て……
一拍遅れて気が付いた。
コンポーザーの仕業だ。
俺は厄介なゲームに巻き込まれたのだ、と。
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