□虚無の使い手と砂漠の魔術師
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不覚にも、意識を数秒持っていかれた。


「っ、く……」

呼吸が乱れる。

それでもとっさに、レオは袖に仕込んでいるナイフを握り、振った。


それを反射的に止める。


目の前にいたのは、レオを強引に転送させた魔術師……のはずだ。


だがそこにいたのは14、5歳に見える子供。


しかも敵意というものが見えない。


「……え?」

その少女は、今自分がどういう状況に陥っているのか分からなかったらしい。

一方、レオも理解が追いつかなかった。


周囲にいるのはレオの予想と違い、子供の集団。

一様に手には杖と思われるものを持ち、マントを羽織っている。

何やら騒ごうとしていたらしいが、レオが絶対零度の視線で周囲を見回しただけで萎縮してしまう。


その中で何人かだけ、怯まず身構えた者もいたが。


「ミス・ヴァリエール!」

真っ先に反応したのは、この集団の中で最も年齢の高い男。

恐らくは、この集団の引率者。


レオはその男を一瞥する。


同時に背筋をぞわりとしたものが駆け抜ける。


「……さて、教えてもらおうか? 何の理由があって、俺を連れてきた」

もし敵なら、問答無用で襲い掛かってきたはずだ。

だが相手も戸惑っているらしい。何から話そうか悩んでいるようだ。

だがレオにとっては、そうやって考え込んでくれているだけで充分。

幸いにして精神攻撃の類に対する防御というものはなかった。あっという間に必要な情報を読み取る。


異世界。メイジ。トリステイン……。


どうやら先ほどの悪寒は、こちらの魔力を測るものらしい。

だが、レオは普段その魔力を隠している。恐らくレオが魔術師……こちら風に言うならばメイジということはバレなかったはず。


魔法使いというのは魔の法を律する者。対して魔術師は魔の術を行使する者。意味合いが違うのだが、相手にとっては関係ないことだろう。


だが今は、レオがここにいる状況を理解するのが先決。


「コントラクト・サーヴァント……?」


そのとき、レオはナイフを突きつけている少女から意識を逸らしていた。


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」


レオのナイフを持つ腕を強引に抑えて背伸びをし、それでも少し足りなかったらしく小さくジャンプをした少女の唇が、レオのものと重なった。


「っ!」

慌てて払いのけるが、既に遅い。

レオの左手の甲に鋭い痛みと熱が走る。

「……な、何するのよ!」

払いのけられ、地面に尻餅をついた少女が反抗的な目でレオを睨む。

「それはこちらの台詞だ。強引に連れて来られたと思えば、使い魔の契約だと?」

キスについてはノーカウント。ポケモンにじゃれつかれたと思うことにする。


それよりも驚愕するのは、レオがこの少女によってこの世界に来てしまったことだ。


当然、それを察知して抵抗した。

だというのに、力ずくで術に巻き込まれたのだ。


普段は魔力を抑えている上に不意を突かれたとはいえ、術防御を弱めた覚えはない。


つまり、レオと匹敵するかもしれないキャパシティの持ち主。


「生憎、使い魔なんぞになるつもりはない。……帰らせてもらうぞ」


元の場所に戻るだけの魔力は、今のレオに残っていない。

まずはこの場を切り抜ける。
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