空に消える夢
□あくまで鈍感お兄ちゃん
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その日もいつも通りに始まった。
「起きろクーリッジ!」
ガンガンガンガンガン!!
ウェルテスの街中に響き渡る轟音。
フライパンとお玉を打ち鳴らしているのだ。
もちろん鳴らしている本人は耳栓必須。
やかましい音なのだが、これがウェルテスの朝の始まりの合図だ。
「……今日はクロエか……」
「ああ」
耳栓を外し、フライパンとお玉を定位置……台所ではなく玄関……に置くクロエ。
なかなか起きないセネルをどうやったら起こそうかと皆で試行錯誤した末に出た結論。
ジェイの話ではどこかの田舎に伝わる技で「死者の目覚め」とも言われたらしいがクロエは詳しいことを知らない。
セネルを起こす担当となった者は玄関にあるこの2つの道具を使ってセネルを起こすのが習慣となっていた。
これで寝相の悪いセネルを探す暇も省け、なお且つすぐにセネルを起こせるという一石二鳥。
「いつも大変だな」
「そう思うなら朝早く起きてくれ……」
「無理だ」
やけに自信満々に断言するセネルを見て、クロエは大きな溜め息をつき……それから真っ赤になった。
「クククク、クーリッジ!」
「どうしたクロエ」
「なななな、何をしているのだ!?」
「何って……汗かいたからシャワー浴びようと思って……」
締め切った、しかも狭い浴槽にいたのだ。寝汗をかいていたもおかしくはない。
「だからって、服をここで脱ぐな!」
「はぁ?」
そう、セネルは堂々とクロエの目の前で服を脱ごうとしていた。
「別に大したことないだろ?」
つまりセネルはクロエに裸を見られてもなんとも思わないわけで……。
異性と意識されていないことに気付いてクロエは肩を震わせた。
「クーリッジの……」
「ん?」
「クーリッジの鈍感馬鹿!」
「はぁ!?馬鹿ってなんだよ!?第一鈍感って……!」
「もう知らん!」
自覚ナシのセネルにクロエは玄関に立てかけたばかりのフライパンを投げつけた。
「どわっ!」
結果を見ることなく玄関を出て扉を勢いよく閉める。
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