空に消える夢
□呪い
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ヴェイグは拳を握り締める。
強く、強く、血が滲むまで握り締める。
爪が肉に食い込み、血が滴る。
だが、痛みはない。
いや、痛みは感じる。
だがそれよりも心の方が痛い。
近頃己のフォルスが不安定だということは自覚している。
これは今に始まったことではないし、今更問題にすることでもない。
不安定になるということはクレアが氷に閉じ込められたときから覚悟していた。
今はそれよりもクレアとアガーテの問題。
原因は月のフォルスだと分かっていてもヴェイグは動けないのだ。
「くそっ」
ようやく手の力を緩め、血が床を汚しているのに気付く。
心配するのは怪我のことよりも、この行為に気付かれないか。
どうせ、傷はすぐに癒える。
アニーに気付かれる前に手当てし、治せばいい。
だがクレアはそうはいかないのだ。
アガーテとクレアが入れ替わっていたのにはすぐに気付いた。
クレアとアガーテは違いすぎる。
そのことを言わなかったのは無用なことを言って混乱させたくなかったからというのと、月のフォルスについての知識があるということを悟られたくなかったから。
だが、知識はあっても今すぐ解決できないのがもどかしい。
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