空に消える夢

□いつか希望の時代で、君と
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ずっと霊峰に籠っていたエドナにとって、人間の営みというものは新鮮だった。


とても活気に溢れ、美しくて、穢れが生まれ……。


下らないと心の内で呟くのと同時に、兄の大好きだった人間と一緒に行動しているということに妙な感慨を抱く。


兄・アイゼンが何を考えて霊峰を出、人界に紛れていたのかエドナはついぞ知ることはなかった。知りたくもなかった。旅先から手紙は届けられてもそれは近況報告とこちらの安否の確認に留められ、気遣いのつもりか用途不明のガラクタが添えられているだけだった。


これが意地を張り、ほとんど返信を出さなかったツケだろうか。ふらりと帰って来たアイゼンは既にどうしようもないくらいに穢れに侵されていた。再会を喜び、満足に言葉を交わす時間すらなかった。



ただ一言謝罪を受け、兄はドラゴンと化し……そして死んだのだ。



「凄い……俺、海って初めてだ」


今まで内陸の町ばかり見てきたスレイにとって、この町は未知のものだろう。レディ・レイクを見てきたとはいえ、湖と海とは全く違う。


「何だか、風がべとつくような気がする。それにこの匂い……」

「慣れてないと、きついな」


スレイとミクリオが楽しそうに会話をしている。ロゼやライラはそんな2人を微笑ましげに見守り、デゼルは帽子の下で舌打ちをしていた。


「……何でこんなに人が多いわけ」

「そりゃあ、港町だもん。商船が寄港して積荷の取引をするからね、賑やかなのよ。私たちセキレイの羽もお世話になってるし」


馬車とは違い船の方が大量に物資を運べるのは確かに利点だろう。その分海では海の危険があるわけだが。


「ふーん……」


ロゼの回答にあっさりと興味を失い、エドナは冷めた目ではしゃいでいるスレイたちを眺めた。

その時、




「エドナ」




「っ!」


確かに誰かに呼ばれ、エドナは振り向いた。

しかし、そんなことがあるわけがない。


天族であるエドナは、まず人間に姿を見られることがない。その上ずっと霊山に籠っていたのだから、天族の知り合いも少ない。ライラやザピーダは僅かな例外なのだ。


しかも、今の声は。


「エドナさん、どうかしましたか?」

「……何でもない」


在り得るはずがない。ただの幻聴だ。

兄はもう、死んだのだから。








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