西山中学陸上部 第一部

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その日のうちに、部活に行ってみんなに話した。
「100や200は揉めるわよねぇ。去年、うちのクラスでも揉めた揉めた」
副部長の酒井さんがあたしたちの話を聞いて、相槌を打った。
「うちのクラスでも、希望者殺到でじゃんけんで決めたもの」
川添さんがD組の様子を語ってくれる。
「でも、鈴木くんは希望通りだったんでしょう?」
伊狩さんが尋ねてくる。
「男子は、男子の方の委員長が『問題なし』でOK出したの。問題は女子の方なのよ」
世良が答える。
「2種目も陸上部員に取られたくないとか?」
「わかんない」
本当にわからなかった。

           
枠が一つしかなくて、短距離種目を陸上部員で独占されたくないというのならまだわかる、気がする。
枠が二人から三人なのに、陸上部員を排除しようというのは勝ちたくないからだろうか。
陸上大会は学校行事であるから、校内順位もつく。
優勝から確か5位ぐらいまであったはずだ。
「ま、『考えてさせて』ってその子も言ってるなら、何か策があるのかもね」
「昔から言うじゃん、『果報は寝て待て』って。ゆっくり待ってみなよ」
「おおーい、女子ー! 始めるぞー!」
外から板河部長が呼んでいる。
一年生はもう外に並んでいる。
真面目だこと。



練習にまったく身が入らない。
体が重く、まるで自分が走っているように思えない。
「藤谷、大丈夫か?」
あたしが調子悪そうなのを見て、鈴木が声をかけてくれた。
頭の重い部分にスッと光の筋が差し込んだみたいになる。
「平気。ちょっと考え事してただけ」
「考えてもどうしようもないことは考えるな。走って忘れちまえ。頭ん中カラになるから」
「そうだね。50mダッシュを10本追加していい?」
「了解。俺ら、次のメニューやってるから早く来いよ」
そのまま一年生たちや世良をひきつれて、鉄棒の方へと行ってしまう。
「ありがと」
呟いた言葉は聞こえただろうか?




――考えても仕方がない。
わからないなら、わからないままにしてしまってもいいかもしれない。
完全に誰かのことをわかろうなんて、無理なんだから。
頭を空にしたくて、軽く左右に振る。
他のクラスとの兼ね合いからいっても、おそらく一週間は待たせないだろう。



――対策を立てておいた方がいいか。
あたしが200mという譲歩に持っていく、という手もある。
これはあくまでも最大の譲歩条件だ。
それに世良が折れるとは思わないし、最悪の場合、もっと別の競技に出ることになるだろう。





帰ったら、相談してみよう。
かつて各部部長たちと闘ってきた、勇ましき姉に。
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