西山中学陸上部 第一部

□READY,GO!
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三日後の顔合わせは、プレハブ校舎の2年E組で行われることになった。
プレハブ校舎は校区にある若葉団地の生徒数増加により建設された。
今年は一年生と三年生が一クラスずつ増加したため、二年生の後半二クラスが急遽移動せざるをえなかったのだ。
教室のドアを開け、集まった面々を見渡す。
前のほうに遠慮がちに座っているのは一年生、真ん中から後ろにかけては二年生がいる。
「瞳〜」
手招きしながら、声をかけてきたのは世良だ。
瞳が勧誘された翌日、同じ人物らしきひとに彼女も勧誘を受けたと聞いている。
席に近づきながら、言う。
「やっぱり、ここにしたんだね」
「まあね。他の運動部は今から入るにはどこも結束固すぎるし、もう一年帰宅部やるほど根性ないもの」
瞳と同様に、運動好きの彼女の選択肢に文化部は入っていなかったらしい。
世良の隣の席に腰を下ろそうとする。
と、二つばかり後ろの席に見覚えのある……もとい、よく見知った人物が座っていることに気づいた。
今年のクラス替えで同じB組、出席番号も隣になった鈴木秀之、その人である。
なぜ名字頭が『す』の彼と『ふ』の瞳が同じ番号になるのかというと、B組に『た』行と『な』行の
女子がいないからである。
座りかけた腰をあげ、立った状態で叫ぶ。
「何でいるの?!」
とにかく、それが素朴な感想だった。
それを叫んでしまうのは、自分でもどうかと思うが。
「何で、はないだろ。この部に入る気だからここにいるんだよ」
そうだ。思い出した。彼も足には自信がある。
小学四年の冬に転校したときには、彼と同じクラスになったものの既に運動会は終わっていた。
小学五・六年も同じクラスで過ごした瞳たちは、運動会のクラス対抗リレーでは二年連続アンカーだった。
女子のアンカーが瞳で、男子のアンカーが鈴木。
誰が名づけたか、『4組のゴールデンコンビ』と呼ばれたこともある。
一年間、クラスが離れたせいか忘れていた。



顧問の先生と生徒が一人、教室に入ってくる。
生徒はあたしたちを勧誘していたひとだ。
あの時、名前も聞かなかったな。
ぼんやりとそんなことを思った。
顧問が教壇の前で話し始める。
「陸上部に入部希望を出してくれて、ありがとう。顧問の山内だ。
まず初めに、一ヵ月後の校内陸上大会の件について説明させてもらう。出場種目と今回決めてもらう所属がかぶっても、それは不問とすることが職員会議で決まった。
明日にもみんなは出場についてそれぞれのホームルームで話し合うことになるだろう。
相川中の前例があるということで、決定した。
そういうわけだから、全力を尽くし、一人でも多く選手候補に選ばれるようにがんばってもらいたい。先生からは以上だ」
『相川中』とは、西山中学とは北隣にある中学だ。
歴史が古く、陸上部もある。学校対抗の陸上大会や各種部活の大会では、ライバル的存在だ。
続いて、さっき顧問と一緒に入ってきた生徒が前に出て話し出す。
「西山中学陸上部へようこそ。部長になる、2年E組の板河悟といいます。
活動内容はその名のとおり。所属する種目については人数制限はしません。各自、やりたいものを選んでください。――先例がなくて、大変かもしれない。でも、せっかく縁あってこうして集まったのだから楽しい部活動にできればいいと思っています」
部長がきびすを返して、黒板に所属できる種目名を書きこんでいく。
「所属決めてから、副部長を選びます。それが終わったら部室へ行こうと思います」


書き終えると、またあたしたちの座る方へ向き直る。
「それじゃ、自分の名前、クラス、希望種目で簡単に自己紹介してもらおうか。廊下側の一番後ろから」
思わず、後ろを振り返る。
二つばかり後ろ、が一番最初のようだ。
「2年B組、鈴木秀之です。希望種目は短距離です」
「よろしく。次、前のひと」
後ろには誰もいないから、次は瞳の番だ。
「2年B組、藤谷瞳。100M希望です」
これは陸上部に入ると決めたときからの希望だ。


自己紹介が次々と進んでゆく。
 「2年A組、酒井有希。中・長距離希望」
「2年D組、川添青依です。種目は砲丸投げ希望です」
「2年C組、香取祐司。長距離希望です」
「2年C組、黒川光。種目は長距離希望です」
「2年B組、河内世良です。希望は200Mです」
「2年A組、伊狩幸です。種目は幅跳び希望です」
「2年D組、園部圭治。長距離希望です」
「2年C組、牧村翼。高跳び希望」

      

「1年A組、小泉さつきです。種目は短距離希望です」
「1年B組、川村千恵です。長距離希望です」
「1年E組、重野明雄です。短距離希望です」
「1年F組、板橋弘子です。高跳び希望です」


副部長は2年女子によるじゃんけんの結果、酒井さんに決まった。
当面、部長の仕事を覚えるため、1年生の重野くんと小泉さんを補佐に置くことになった。



こうして1992年4月某日、一年生4名、二年生11名で計15名。
初代西山中学陸上部が発足した。
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