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「海詩?」


鬱蒼と繁る彼の森―――


闇の淵に微かに煌めく月が霞んで見える。
葉が擦れる音、風が抜ける感触、立ちこめる、血の馨。


「かくれんぼか?」


微かに感じる、愛しい気配。

完璧、遊んでる。

今日の任務は全部で五つあった。誰が何をやるかはジャンケンで決めた。
海詩が二つ、俺が二つ、靜詩が一つ。まぁ、靜詩はさっさと終わらせて帰っただろうが。
一番離れた地での任務が当たった俺が、一番帰りが遅い訳だ。
で、暇を持て余した海詩が遊びに来たんだろう。



「海詩、賭しようぜ」


「何賭ける?」


今の今まで屍骸が在った場所は瞬きする間に元の繁みに戻り、
嬉々とした表情を浮かべた海詩が立っていた。



「そうだな、5分以内に後ろ取られた奴が負け。んで、負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く」

「何でも?」

「そう、何でも」


「いーともー!」


ノリノリな海詩に、僅かに口角を上げる藍詩。


「クローンは無しな。単体のみ」

「クローンてっ。影分身なんか無くたってオレ勝っちゃうよー」


「はいはい。じゃ、スタート」



一瞬の後に、其処には誰も居なくなる。

お互い僅かな気配を出したり消したりしながら賭けに興じる。


聳える木々を渡り歩き、付かず離れず様子を見る。
何かが近づく気配がし、クナイが背後の幹に刺さる。

制限時間は5分。このままだと埒が明かないと、藍詩は気配を消すのをやめた。

そして繁みの少し拓けた場所に佇む。
海詩が後ろを取りに来た一瞬が勝負。その意を汲んだのか、海詩も気配を顕わにしていた。





「残り一分」




藍詩の言葉が静寂の森に溶けた。

その瞬間。真上から攻めてきた海詩、特注クナイの研ぎ澄まされた先端が左耳を掠めたと同時に、
クナイの持たれた腕を掴みそのまま地面へ捻伏せた。




「はい、俺の勝ち」


「うわーずりぃよ!」

「何が」


「あんな堂々と立たれたら他に手がねーじゃん!」


「負けた奴は文句言わないよーに」

「まじムカつく」


「海詩、忘れた訳じゃ無いよな?賭」


「覚えてるし!で、望みはナンデゴザイマショウカ?」


「…コレ」


「何コレ」



藍詩の懐から出てきた、怪しい、怪しすぎる程どピンクの錠剤。



「イヤ、コレはあまりにも怪し過ぎて怖いんだけど……」

「拒否権は一切無し。何でも言うこと聞くってのがコレを飲むだけだなんて素晴らしく簡単だよなぁ?」


アナタのその胡散臭い笑顔がたまらなく恐怖を掻き立てるなんて、恐ろしくて言えたもんじゃない。


「飲む前に一つ質問」

「なんだ?」


「誰経路で手に入れた薬?」



「あぁ、俺にも守秘義務あるから」


そこでその笑顔は恐いだけだからやめてくれ!
俺の本能がこの薬を拒否してんだよ!


「海詩、俺を焦らして楽しんでんの?海詩がそのつもりなら、」



「――っん、ぅ…ぁ」


ゴクリ。


あー、やられた。楽しそうな藍詩の顔。ぜってぇヤバイ。


「何の薬か知りてー?」


「し…、知りたいかな?」


ふと、耳元に寄せられた唇。
『媚薬だ』そう囁かれ、耳朶を甘噛みされた。


全身が、ゾクリと粟立つ。


「海詩は馬鹿みたいに薬効きにくいからな、超強力なヤツにした」

あぁ、楽しそうな藍詩。その顔はヤバイよ。今日は犯り殺される!ってかカラダ熱くなってきたし。


「効いてきたみたいだなー」

「っ変態!鬼畜!ドS!悪魔!野獣!」


「……。上等じゃねぇか、覚悟はいいな?」













鬱蒼と繁る彼の森に、獣すら畏れ慄く断末魔のような叫びが木霊した―――。


END




H21・6/17〜




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