短編・詩
□道化と雑用
2ページ/2ページ
2 『信じて欲しくて言ったんじゃないんだ』
まるで呪いだ。人の前に出ると、声が出なくなる。喉が詰まる。
気持ちを伝えるのは表情、パントマイム、音楽。文字は……知らない。
雑用係の彼がよくこちらを見ているのは知っていた。何度か話し掛けられもした。だけど声が出ない。
衣裳もメイクも無い、本当の自分で本音を言えたら良いのに。苦しさを隠すために道化の少年はおどけて見せる。
声は出ないけど、伝える方法はひとつじゃない。
少年は独学で学んだ文字を使ってみた。雑用係の彼からしっかりした反応があった。
よかった。通じた。
伝わる事の喜び。
しかし声の出ない説明は難しい。確か人魚姫は――
『こえをとられたからしゃべれない』
紙の端に小さく書いた呟きに、雑用係の彼が反応した。
そうだねと、少年は返す。貼り付けた、寂しい笑顔で。
ぴょこっと跳ねておどけて見せて、役者小屋まで跳ねて行った。彼に気持ちを悟られないように。
ああ、もう。信じてほしくて言ったんじゃないんだ。次に繋げる為の呟きだった。それを彼は読んでしまった。それだけのこと。
それだけのこと、なのに。
零れる涙。慰めるのは故郷の歌。