連なる世界
□二人の旅人
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オリアナと名乗った女性は、こっちへ来てと手を引いた。
家の外側を回って連れて行かれたのは、裏庭。そこには一本の葡萄の木があった。捻れた大きな幹、幾重にも分かれた枝、ここに来るまでに見た畑の木より相当古い老木だ。
しかし、畑の木はみんな実を付けていたのに対し、老木には元気がない。しおれた葉が、ぽそりぽそりと付いているだけだ。
「これは……」
言いかけたアペリは開いた口をそのままに、言葉を探した。結局、良い言葉が見付からなかったのか、素直な気持ちで見たままを口にした。
「枯れかかってますね」
「そう……でも、私にとっては大切な木なのよ」
アペリはゆっくりと木の幹に触れた。葡萄畑でそうした時と同じように、優しく風が吹き、枝が揺れる。
「……そう、まだオリアナさんと居たいんだね」
アペリは木の意志を確認したように頷くと、肩から掛けていた鞄を下ろした。
「オリアナさん、今からこの木を元気にします」
「木を元気にって……貴方は、木のお医者様?」
オリアナさんの問いに、アペリは首を横に振って笑う。
「いえ。専門知識は全くと言って良いほど無いんですけどね」
じゃあどうやってとオリアナさんが問い掛ける前に、アペリは行動で答えを示した。
「♪〜」
歌声が裏庭に広がった。
人も、猫も、草木さえ聴き入ってしまうような優しい歌を、願い、祈るように歌う。
風が祝福するかのように踊り、しおれていた葉の陰から若葉が顔を出した。見るまに若葉は全ての枝に芽吹いて、つやつやと輝く黄緑色が太陽の光をめいいっぱい受けていた。
《樹木再生の歌》――ではなく、もっと大きな括りで《癒しの歌》。アペリが得意とする歌魔法のひとつだ。
「〜♪」
ゆっくりと消えるように歌が終わった。
私達の前には、さっきまで枯れかけていたとは思えないほど生き生きとした葡萄の老木が立っていた。