連なる世界

□蒼穹の下、丘の上
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 さわさわと柔らかい春の匂いを連れた風が吹く。
 アルが気分良く散歩していると、原っぱに座る見なれた少女の背中を見つけた。
 「サン……と、誰だ?」
 少女の隣には見知らぬ少年がいた。
 こちらに背を向けているため表情は分からないが、そよ風に乗って二人の歌声や笑い声が聞こえる。
 ――面白くない。
 その光景はなぜか胸をざわつかせた。
 理由は自分にもよく分からないまま、気付いたら足は二人のいる場所へ向けられていた。

   ***

 歌い終わると、少年は「さて」と言って立ち上がる。
 「――そろそろ行かなきゃ」
 「あ、うん。楽しかったよ。歌を聴かせてくれてありがとう」
 「どういたしまして。僕も楽しかった」
 どうぞと言って差し出された手を取って、サンは立ち上がるとスカートに付いた草を払った。
 「ねぇ、また会えるかな」
 「そうだね。またいつか、ね」
 にこにこと、しかしどこか含みを持った答え方をする少年に、サンは小首を傾げた。
 「――ほら、帰るんだろ? さっさと行けよ」
 突如、サンの背後から聞き慣れた声がかけられ、彼女の首に細くしなやかな腕が絡められた。
 「わっ。あ、アルくん……?」
 「うんじゃあ僕はこれで。またね」
 自分を睨む藤色の瞳にも飄々とした態度を変えず、二人にひらひらと手を振って、少年はどこかへ行ってしまった。
「行っちゃった……名前、聞きそびれちゃったなぁ」
「なんであいつの名前なんか聞かなきゃいけないんだよ」
首に腕を絡められたまま、サンは後ろを振り向いた。
「アル君……何か怒ってる?」
「……別に。何で?」
「だって声が怖いんだもん。それに、ここ」
アルの視界に手の平が現われたと思った矢先に、ぺち、と眉間を指先で叩かれた。
「シワになっちゃうよ」
ぺちぺちと何回か叩かれ、それが終わる頃には不思議と眉間の力が抜け、ざわざわと落ち着かなかった心は静かになっていた。
「うん、もう大丈夫だね。怖くないよ」
にへらとサンが笑うと、アルは顔を背け、彼女を己の腕から解放した。
「さて、なんだかお腹空いちゃったし、私も帰ろうかな。アル君、今日はどうする?」
「そうだな――」
――いつもなら強引に連れて行くくせに。
「送るついでだ。寄ってく」
「うん。じゃあ、帰ろう。今日のおやつは何かなぁ」
楽しみだね、とサンは嬉しそうに笑うと、結い上げた髪を躍らせて歩き出した。
自分に向けられるいつもの笑顔に安心して、アルは少し足を速めてサンの隣に並んだ。
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