Heath
□夏休みの日記
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八月六日 金曜日 天気、晴れ
長い休みの中に、思い出したようにある登校日――は、もう終わって、ようやく家の門までたどり着いたんだけど……。
「!?」
――玄関の扉の前、そこには黒いものがあった。
木槿の言葉を思い出す。
『鈴、君の周りに変なものがうろついている。気をつけて。ザワザワ』
少し、恐かった。
確かめるために少しずつ近付いて触れようとしたら――動いた。
思わず手を引っ込めてしまった。
「(お、起こしちゃった…?)」
ゆっくりと体を起こす黒いもの……それは男の子だった。
歳は九歳くらい。髪も、目も、服や靴まで真っ黒の、まさに黒づくめの男の子。
こっちを睨みながらの開口一番、
「お前、だれだ」
《生意気な奴》それが第一印象。
「まず自分から名乗りなさいよ」
私がそう言うと、男の子は少し考えて
「…そっか。――人にはクロと呼ばせている」
と、(腕組みをしながら偉そうに)答えた。
「クロ……(見たまんまだ…)」
続けて、付け足すようにこんな事を言った。
「お前、この家の住人か。しばらく世話になるぞ」
「…………はぃ!??」
「もう決まったことだ」
いやいやいや。人の家いきなり来て「世話になるぞ」って……「もう決まったこと」って、何勝手言ってんのよ!
第一、
「クロって、どう考えても人に付ける名前じゃないし」
「人じゃないからな。……どう考えてもとか言うけど、お前らだってあだな位あるだろ」
ああ言えばこう言う。
言い合っていても終わりが見えてこないので、とりあえず家に入ることにした。
それから一時間もしないうちにお母さんが帰って来て、クロを見るなり、別の部屋へ連れていってしまった。
「………!???」
下の階から騒ぐ音が聞こえる。
……行った方がいいのかな…?
騒ぎはすぐに収まり、階段を上ってくる足音。
クロが疲れた顔をして戻って来た。さっきまでと着ている服が違う。
「お前の母親に着せ替えられた…」
そんな睨まれても……。
「真夏なのに黒いコート着てるなんて、見てるこっちが堪えられないわ」
そう言って扉から顔を出したのはお母さん。私を見ると、付け足すように
「そうそう、しばらく家に置いとくことにしたから。その子。喧嘩しないようにね」
言うだけ言って、部屋から出ていった。
「………」
言葉が出ないって、この事なんだな…。
まったく! 重要な事は先に言ってよ!!
クロを見る。
「さっきははぐらかされたけど、クロって何? 人じゃないってどういう事――っ!?」
クロは何も言わず、部屋の窓から出て行った。
まだ話の途中――っじゃなくて、何やってんの!!
窓に駆け寄ると、クロが戻って来た。左腕にはお母さんに回収されたらしい元の黒服、手にはカラスを捕まえて。
……それより――いや、それもなんだけど、今…下から飛んでこなかった? ここ、一応二階なんだけど……。
常識が壊されていく……。
カラスの体が羽を残して縮み、最終的にビー玉くらいの大きさになってしまった。
「……人間はおれ達をまとめて《悪魔》って呼んでるらしい」
羽の生えた玉をポケットにしまう。
「今のおれの対象者は《イワセ・スズ》――」
クロが顔をあげる。
目が合って、逸らせない。
「――お前だよな?」
日常が壊されていく……。
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