Heath

□夏休みの日記
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一、夏休みと黒い謎




 白い雲が浮かび、遠くからは雷鳴が聞こえる。

「(夕立が来る……)」

 部屋の窓から見た空には、人影のようなものが浮かんで見えた。




 机に広げたノートは、真っ白なままよだれの跡がついていた。

「……寝てた?」

 七月最後の日。宿題をしようとノートを広げたまま、私は寝てしまったらしい。



 自己紹介は早いめでもいいよね。

 私、岩瀬鈴。

 木や風と話せるのが特技。……とは言っても、周りには同じような特技を持った人がいっぱい居るんだけどね。




 空に黒い影を見た次の日、しっかり寝坊した私は、山の中にある小さな広場に向かった。

「鈴! 久しぶり!」

 顔を見るなり、喜ぶ犬の尻尾のように手を振ってくれるのは、小さい頃からよく遊んでいる友達。岡本美苗。

 夏休みに入ってからは、しょっちゅうここに来てるみたい。


 私は広場の中央近くに生えている木に話しかけた。

「木槿(むくげ)、何かあった?」
『うん。数日前に風が生まれたよ。ザワザワ』
「何号になるんだっけ?」
『これで三百六十二号。――それから、鈴、君の周りに変なものがうろついている。気をつけて。ザワザワ』
「変なもの……?」

 私は昨日見た黒い影を思い出した。

 気をつけてって言われてもね……。

 考え事をしていると、突然背中が重くなった。

 負ぶさる形で美苗が乗っかかっていた。

「美苗……どいて」
「うん」

 背中が軽くなる。

「木槿、わたしは?」
『……特に無し。ザワザワ』



 その後は美苗と二人で川へ行ったりして遊んだ。


 家に帰る頃には、木槿の言葉は薄れかけていた。




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