短編・詩

□廃墟の光
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  『廃墟の光』


 ――「表情が硬い」と言われ続けて何年になるだろう。幽霊のようだとか、人形のようだとか……。


 雨の降る中を歩いていた。体は冷えるし、ぬかるむ土に幾度も足を取られる。いくら歩いても、人と出会うことはない。晴れている日でさえ、この町で人を見かけるのは稀だった。

 天気に文句を言っても仕方ない。人の力ではどうにも出来ないのだから。死にかけの町に温もりを求めても仕方ない。与えられるのは虚しさと空腹ばかり。自分に言い聞かせながら歩き続ける。

 屋根を探していた。雨から自分を守ってくれる場所を。探しながら、町中を歩き回った。見つからないまま、すっかり濡れそぼってしまった。髪の毛の先から、溜まった雨が粒になって落ちていく。空一面、暗い色の雨雲が覆っていて、土に、建造物に、人に、分け隔てなく雨を降らせている。屋根なんてどうでもよくなった。

 壁に背を預け、崩れるように座り込んだ。目線が一気に低くなり、風景が違って見えてくる。動きはない。水が落ちてきて、集まって流れていく以外、動きはない。降り方は優しいのに、痛いほど冷たく、体温を奪っていく。

 指先が赤い。吐く息が白い。空は暗い。雨は痛い。熱い。頭がぼやける。目が潤む。目の前で、地面に当たった雨が弾ける。
いつの間にか頬が地面に触れていた。


――幽霊は温度や痛みを感じない。だから雨なんてお構い無しで進んで行く。人形には心がない。だから寂しいとか、辛いなんて思わない。



……ほら、自分は生きている……。





   終

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