連なる世界

□出会い/アペリとケリー
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 風走る大地、うねる河は潤いと恵みを与える。
 翼を広げ悠々と飛ぶ鳥の影を見送り、水筒の蓋を開けた。中身は残り半分を切った。

「またどこかで補充しないと」

 二日間歩き続け、ようやく道らしい道を見付けたアペリは、今度は集落を探しながら歩いていた。
 まだ人に会っていない為、この世界のルールもよく分からないが、魔法は使えるので不自由はしていない。ただ、答えてくれる人がいないのは、寂しい。

「もう慣れたけどね」

 わざと反対の言葉を使って気を紛らわせた。
 人恋しさに幻聴まで聞こえる始末。しかも言葉ではなく悲鳴とは、相当疲れているようだ。

「――!」

 また聞こえた。
 慌てて水筒を仕舞い、辺りを見回す。一回目より二回目の方がはっきりと聞こえた。きっと、こっちに近付いているはずだと目を凝らして周りを観察していると、まばらに立つ木々の間を子供が走ってくるのが見えた。背後には狼。悲鳴を上げながらも追い付かれていない脚の速さに感心していた――が、

「たすけて!」

 叫ぶと子供はアペリの背後に隠れた。
 ああ巻き込まれ人生。「たすけて」なんて無視して放り出すこともできた。しなかったのは気まぐれだと心の中で言い訳をした。
 右足の爪先で軽く地面を打って魔法陣を展開する。簡易結界。光や風など身近な自然の力を利用した、身を守るための魔法だ。
 力のある魔術師なら簡単に破れるが、今回の相手はただの狼。結界の外をぐるぐると徘徊するしかできない。
 背後に隠れている子供の震えが布越しに伝わる。

「大丈夫」

 何とか安心させたいが、この状況では気休めにもならないのは分かっている。

「狼達には早々にお帰り頂こうか」

 アペリが鞄から取り出したのは小さな笛。力いっぱい吹いても人間の耳が拾える音は出ないが、犬の仲間は確実に嫌う音が出る。今までも何度もこの笛に助けられてきた。
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