連なる世界
□風邪ひき魔術師
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今日のアペリはどこかおかしい。
普段から常識からズレてる言動はあるけれど、今回はそんなんじゃなくて――。
『大丈夫…?』
「だい、じょ…ぶ」
明らかに辛そうだ。
歩くとふらつくし、鼻声だし、何か顔色悪いし……。
『風邪、なんじゃない?』
「……ない。ないないない」
何て言うか……こういう時のアペリは嘘が下手だ。
『ねぇ、キルシュのとこに行こう』
「自、力で…治せる」
『調合も回復魔法も苦手なくせに!
意地張ってないで、行こうよ!』
「……」
袖をくわえて引っ張っても、耳元でいくら鳴いても動かない。
『もうっ!』
アペリを動かすのは諦めて、キルシュを呼んでこようと考えた。が、私は薬師の店がどこにあるのかを知らない。
八方塞がりだ。
そもそも私一匹では、部屋の扉すら開ける事はできないのだ。
『誰かー! 誰か開けて下さーい!!』
扉に向かって叫んでみたけど、返ってきたのは背後のソファーで寝ている病人の冷たい反応だった。
「……ジステぃ……うるさ、ぃ」
あんたのために叫んでんだよっ!!
「……寝かせて……」
私が振り向いた時には、アペリは既に眠っていた。早い…。
改めて目の前に立ち塞がる扉を見る。
何の変哲も無い、普通の扉だ。ドアノブは掴んで回すタイプ。容易には開けられない。
他に出口はないかと探してみる。部屋の窓は全て閉まっている。
脱衣所まで行ってみる。人は通れない小窓は、わずかに開いていた。
『待ってて、アペリ。助けてくれる人、きっと見つけて帰ってくるから――』
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