連なる世界

□赤い包帯
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 手首に結んだ赤い包帯。君は嬉しそうに微笑んだ。
「きっと、護ってくれると信じてる」
「バカだなぁそんなに簡単に悪魔を信じちゃダメだよ?」
「じゃあ、護りたくなるように、貴方の心を捕えるよ。覚悟しててね」
「やってごらんよ」
 永い時の中、退屈しのぎのつもりだった。
 彼女はいつの間にか、名前の通り、ボクの光になっていた。
 神に仕立て上げられた悪魔と、偽りの神に捧げられた生け贄。役割を越えて手をとる二人の想いに反して、周囲の人間は争いを繰り返す。
 包帯を染めたのが何かは聞かない。きっと彼女も望んでない。ボクの部屋に現れては手首と中指を結び微笑む彼女を──いつかは食べるつもりだったエサを──食べたくないと、思ってしまった。

「ねぇ神様……」
「ダークンて呼んで」
「ダークン……私ね──」
 紡ぎかけの言葉は無慈悲な矢に止められた。力無く体を預けた彼女の背中から、温もりが流れ出す。
 神を独占しようとした魔女め。誰かの言葉。
 さあ、どうぞ御召し上がりください。年老いた神官の言葉。
 媚びへつらう笑みに、無言で異議を唱えれば、彼らの表情はやがて恐怖へと変化した。
 神殿を流れる水が赤く染まった。

 力無く地に伏した彼女を抱き寄せ、自身の無力さに項垂れる。
 落ち込むことはない。元々エサだったじゃないか。
 だけど、こんな終わりは望んでいない!

「……ダークン」
 弱々しい声に名前を呼ばれ、はっと顔をあげる。
「ルーチェ!」
「……神様も……泣きそうな顔、するんだね……」
 彼女は笑ってボクの頬を撫でた。
「……ごめんなさい……最期にひとつだけ……この国を、私の大好きな人たちを……護って、ね?」
「最期なんて言わないで……ねえ! ルーチェ!」
 破壊が存在の悪魔に、大切な人たちを護ってなんて願わないで。目の前の大切な人すら護れていないのに!
「きっと……護ってくれると……信じている……」
 もう、彼女の目に光はない。途切れ途切れに紡がれる言葉が、二人を縛り付けていく。
「バカだなぁ……そんなに簡単に悪魔を信じちゃダメだよ?」
「でも……心を、捕らえた……私の……」
「うん、君の勝ち」
 あぁ、最期になんて呪いをかけてくれたんだ。これはとてもじゃないけど解けそうにない。
 初めて「食べたくない」「ずっと傍に居たい」と想った人は、もう、人形のように動かない。
 そっと胸に口づけて、静かに皮膚を裂き、心臓に手を伸ばした。
 甘くて苦い、他の人間には感じなかった味覚。 


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