2010.1.24発行/P34
夢を、みていた。あの日の夢だ。
三成は夢の中で、恐怖に悲鳴を上げようとしていた。だが人間は、真の恐怖に遭遇すると声帯が強張り、思うように叫べないのだと、あの時知った。だから、夢の中でも細く息を吐くような微かな悲鳴しか上げられはしなかった。
しかし、それは三成の目を覚ますのに十分だった。暗闇に目を見開き、漸う己が部屋の天井を見分け、ここは佐和山の居城なのだと気付いた。ほっと息を吐けば、緊張で張り詰めていた全身が徐々に解れていく。
「殿、如何いたしましたか」
隣から共寝をしていた左近が、三成に声をかける。現実にか細い悲鳴を上げていたのだろう。喩えどれ程小さな悲鳴でも、三成のそれに気付かぬ左近ではないのだ。
だが、今は聞かれたくなかった。答える為に、『あのこと』を思い出すのも苦痛なのだ。夢を、忘れたかった。
「何でも、ない―起こしたなら、すまない」
左近が宥めるように三成の背を擦った。その感触に、三成はびくりと身を縮こませた。華奢な躯が、かたかたと震えている。
「す、すまない、左近。……俺は、もうひと眠りする」
「そうなさい。まだ深更ですから」
何も考えずお眠りなさい、と左近が三成との接触を避けるように身を離す。ひとの感触が―男との接触が三成を怯えさせるのだ、と左近は薄々気付いていた。それが、何を意味するのかも。
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