2009.3.15発行
「左近はいつも俺ばかり善くしようと勤めているではないか。だから、今宵は俺が左近を善くしてやろう、と思ったのだ―駄目か……?」
駄目も何も、左近にとって青天の霹靂ではあったが、積極的な三成は大歓迎である。またしても左近はごくりと生唾を嚥下した。
「構いませんが……よろしいので?」
「……うむ……拙いかもしれないが、精一杯努める」
何とも可愛らしいその言葉に左近が脂下がるのを抑えられないでいると、三成がそっと近付いて来た。そうして躊躇いながら、胡坐をかいた左近の膝に跨るように座る。
恥らうように三成の長い睫毛が震え、薄らと開かれた鳶色の瞳が左近の眼前に迫った。その澄んだ瞳が息苦しくて、左近が思わず目を閉じると柔らかい唇が瞼に押し当てられた。
そのまま三成は左近の古傷に口付けすると、小さな舌先を尖らせるようにしてそこをなぞる。
「左近のここ、何があったんだ……?」
傷跡を舐める合間に、三成がそっと吐息を押し出すような声で聞く。三成は己の知らない頃の左近のこの傷跡を気にして、事ある毎に聞いてくるのだ。
「ただの戦傷ですよ……」左近が苦笑を浮かべながら、三成の柔らかな耳にそっと囁いた。
「この傷を見ると、胸が苦しいのだ―」
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