*2012.11.11発行/P30



「おはようございます、三成さん」

 隣の部屋のソファでゆっくりとコーヒーを楽しみながら、読書に興じていたらしい。三成のいる部屋が暗い分、左近の部屋の様子がつぶさに見てとれた。

「おはよう……貴様は、いつ起きた」
「ええと、九時頃だったかと。今朝は何時になく、すっきりと目が覚めました。三成さんがいるからですかね」

 左近を睨みつけながら、それでも挨拶はきちんと返さねばならないと思う自分が忌々しい。
 左近はさして気にした様子もなく、三成に笑顔を向けた。

「三成さんはよく眠っていらしたので、そのまま可愛らしい寝顔だの、まぁ暫く色々堪能させて頂いた後に左近だけ起きました」
「なっ……」
「冗談ですって」

 左近のつまらない冗談を聞き流す余裕は、今の三成にはなかった。
 というよりも、左近が言うのはきっと冗談半分で、半分は本当に自分へ悪戯をしていたに決まっているのだ。あの脂下がった顔には、「すいません、本当はやりました」と全て書いてあるではないか。
 それも腹立たしいが、追及していると本題から逸れてしまう可能性があった。三成は考えを本筋に戻すと布団を乱暴に捲り上げ、荒々しい仕草でベッドを後にした。
 そのまま左近の前に腕組みして立ちはだかると、今度は腹立たしい恋人を睥睨してやる。
 そうして、何も塗っていなくても綺麗に紅い唇から、不釣り合いに厳しい言葉を吐き出した。

「貴様、何故起こさなかった!」
「ですから、よく寝ていらしたので起こすに忍びなかったんですよ」
「今朝のこともそうだ。もっと早く起きていれば、半日を無駄にするという愚行を犯さずに済んだであろう。それもそうだが、もっと抜本的なことを言っている」
「なんですか」
「何故、俺が眠ってしまう前に起こさなかった!」
「……ちょっと、意味が分からないんですが」
「俺はけじめがないのは、好きではない」
「はあ」
「常々言っているが、例え恋人同士であっても、隣に住んでいるのだとしても、やはり一度自分の家に戻るべきであると思うのだ」
「しかし……」
「何だ」

 三成が先を促すまでもなく、左近はつらつらと語り始めた。

「昨夜、事が終った後に正体不明になられて、そのまま眠ってしまわれたではありませんか。それでは、原因の一端を担っている左近としては、あまりに申し訳なくて起こせませんな」
「一端ではなく、殆ど全部だろう! あ、あんなに責めたてて!」
「おや、あんなに、というのはどこの部分のことを仰っているんです?」

 これは今後の参考に是非伺わなくては、と言いながら左近は三成の腰を抱き寄せた。引かれてバランスを崩しそうになった細い躯は巧みに左近の膝の上に誘導され、気付くと背中を向けて、腿の上に形で跨る形で座らせられていた。

「お前っ……」
「さあ、仰って下さい。左近と三成さんの今後のお付き合いには大事なことでしょう?」
「大事って……んんっ」


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