2010.6.20発行/P20


翌朝、商人たちの手によってお着物が完成されました。ただ、お着物を三成に運んできたのは左近でした。

「二人は着物を完成させて、けさ早く佐和山をたちました」

左近は三成にそう言いながらこうりを床に下ろします。そうして、もったいをつけるように、ゆっくりとそのふたを開きました。

「どうです、このかれいさ! 殿にぴったりですな!」

左近はこうりの中から、何かもちあげて三成のほうへ見せるような仕草をしました。次から次へと見せているようですが、三成には何も見えません。仕方なくおうようにうなずいてみせると、左近は

「しかも彼らが言うには、これらの着物はくもの巣を同じくらいかるく仕上がっているそうですよ。着た時に何も身につけていないように感じるそうですが、それこそがこの着物が特別でかちがあるもの、といういわれなんですな」

と、つかんだ何かをふってみせました。とてもかるい、といいたいらしい左近に、三成はもっともらしくもう一度うなずきました。

「どうです殿、おめしになってみませんか」

と左近は言いました。

「あんなに楽しみになさって、なんども作業を見にいってたでしょ。左近もおめしかえのお手伝いをいたしますよ」

そういわれればいやとも言えません。へんに抵抗して左近に疑われるのも困るので、三成は着ているものを素直にぬぎました。

左近は着ていたお着物を脱いだ三成を、渋い顔で見つめています。なにごとかと思い三成が首をかしげると、

「彼らは着物の他に、あまった布を使って揃いの下帯もつくってくれてるんですが……ごくやわらかくてかるい布なので肌触りもよいと思いますし、こちらに締めかえていただけますかね」

と言いだすではないですか。いくら裸を見せあった関係でも、昼間からすべてをさらしたことはありませんでしたので三成は真っ赤になって首をふりましたが、左近は「せっかくですから」とゆずりません。


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