Memory of Night(BL)

□3
1ページ/7ページ


 水曜日。

 日直で一人教室に残っていた宵は、ぶつくさ文句を言いながら、日誌を適当に埋めていた。


「……たくめんどくせーし。こんなん、担任が書きゃいいのに」


 晃の家に行ってから、宵はセックスをしていない。

 もちろん晃にやめろと言われたからではない。

 ただ単に手頃な相手が見つからなかっただけだ。

 確かに相手は誰でも良かったが、あまりに派手に誘いまくると学校にバレる恐れがある。それはまずい。

 そんなことを考えている時だった。


「あっれ〜。宵くんまだいたの〜?」


 開けっ放しのドアからそう声がして宵は顔を上げた。


「ああ、ゴン太」


 そこに立っていたのは、宵のクラスメイトで百キロの巨漢、林田(ハヤシダ)ゴン太だった。


「日直なんだよ。ゴン太こそ、まだ帰んねーの?」

「委員会だったんだよぅ」


 ゴン太は人なつっこい笑みを浮かべながら、宵のところに近付いてくる。

 準備室での一件以来、ゴン太とはよく話すようになった。


「うわ……すごい適当に書いてんね」

「だってめんどくせーんだもん」

「でも、あんまり適当だと書き直しさせられるよ?」

「じゃあ、ゴン太が書いて?」

「いいけど……またお金稼ぎに行くの?」


 ゴン太の言葉に、宵が顔を上げる。


「行かねーけど。……ちょっと寄るとこあるから、頼むよ」

「どこ?」

「ん? 病院だよ」

「え? びょ……」


 驚いた顔をするゴン太に、宵は書きかけの日誌を差し出す。


「頼むよ」

「うん、わかった!」


 大きく頷いて見せるゴン太を残し、宵は教室から出ていった。

 学校からの帰り道、宵はいつもの通りをはずれ、人通りの多い町中を歩いていた。

 しばらく行くと、枝分かれした裏通りに出る。宵はその通りを、複雑な道順で進んでいく。

 迷い安い場所だったが宵には通い慣れた道だった。

 そうして辿り着いたのは、『協立(キョウリツ)総合病院』と書かれた大きな病院だった。

 中に入ると、病院独特の薬品くさい匂い。

 人が溢れる院内で、辺りを見回し宵は目的の人物を探した。


「宵くん?」


 ふいに後ろから肩を叩かれ、宵が振り返る。


「先生」


 来た時間帯が悪かったかもと一瞬思ったが、そうでもなかったらしい。

 そこには、白衣姿の男が立っていた。
矢部弘行(やべひろゆき)。歳はまだ三十前半と若いが、腕がいいと評判の医師だった。

 茶色い、少し癖のある髪と、細い眼鏡が柔らかな印象を与えている。白衣が清潔そうで、『ハンサム』という言葉がよく似合う男だった。

 そして、弘行はある人物の主治医をしている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ