■novel
□言の葉
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どうしてだったか、俺が昔の名を捨てたのは。
俺たちが時代を切り開いていたあのときの名前を。
斎藤一。
俺の名前を呼んでいた者は、ただの一人もいなかった。
懐かしいあの時代でさえ、俺は姓の名で呼ばれることしかなった。
呼び捨てにする者など、極わずかな人間だけだ。
「斎藤っ!!」
そして、この時代に俺をそう呼ぶのも、極わずかな人間。
こいつは、そのうちの一人。
「今日、飲みに行こうぜっ。」
相楽左之助。
こいつに誘われれば、俺は何処にだって行ってやる。
こいつの近くにいられるなら、自分の時間さえ厭わない。
こいつを守る為なら、何だってしてやる。
「この間、剣心がよぉ・・・。」
酒の席で、こいつは自分の友人のことを良く話す。
その度に思っていたこと・・・。
剣心、蒼紫、克、弥彦・・・。
親しげにそいつらの名前を呼び、楽しそうにそいつらのことを話す。
その度に思っていたこと・・・。
そう、こいつが誰かを名で呼ぶたびに、思うこと。