■novel
□芽
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こいつは俺のところへやってきて、昼飯をたかる。
それを無視すると、いつまでもしつこく居座って、文句ばかりいう。
それが煩わしくて、結局、飯へ連れて行く。
いつしか、それが当たり前になり、こいつは毎日のように俺の前に現れるようになった。
その日も、そいつはやってきた。
そして、いつもこように蕎麦屋へ出かける。
「かけ蕎麦。」
「俺も同じやつ!」
そいつはいつも俺と同じモノを注文する。
俺よりも高いモノを注文したり、安いモノを注文することは1度もなく、ただ、いつも同じモノを頼んだ。
それがどうしてなの聞いたことはなかった。
ただ、俺より安いモノを食いたくないとか。
だからといって、金を出すのは当たり前のように俺なのだから、そいつなりの気遣いで高いモノを頼まないとか。
そんなことをぼんやり考えた。
「おまちどぉサマ。」
店の店員が、かけ蕎麦を持ってきた。
目の前のそいつは、待ってました!と言わんばかりの笑みを見せる。
俺も運ばれてきた蕎麦に手をつける。
2人向かい合って、蕎麦をすするその光景を誰が予想できただろう。
何がどうなったらこんなことになるんだろう。
当の本人が言うのもなんだが、俺自身、全くの謎だ。
いつの間にか、こうなっていた。
恐らく、こいつに聞いても、首をかしげるだろう。
俺が仕掛けたとは言え、1度は殺しかけた仲だというのに…。