■novel


□夏色
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空を見上げれば、大きな入道雲が眼に入った。

日差しは強く、その白い肌にジリジリと照りつける。


「あちぃ…。」


時折吹く生暖かい風に 赤い鉢巻きをなびかせながら、その男は呟く。


この季節になると 日中が急に騒がしくなる。
その声の主たちは 休むことなくただ己自身を叫ぶ。


「うるせぇ蝉どもめぇ〜。」


店先を見れば 氷の欠片が色とりどりの衣を纏い、日の光に照らされ自身を魅せる。


「うまそぉ〜、けど金ねぇ〜。」

夏である。


「あぁ〜…完全にあちぃぃ…。やっぱ 家の中でおとなしく寝ときゃよかったぜ。」


町の中を歩きながら、自分に後悔した。


特に意味があって、町中を歩いているわけではなかった。

ただ、この暑い中、あの長屋の中に じっとしていることができなかった。
寝転がっていて 何もしてないのに汗が出てくる。
することもなくて、座っていても汗が出てくる。
おまけに暇だ。

と、言うことでフラフラと出掛けたわけだ。

だが…


「どぉか考えても外の方が暑いに決まってんのに…。何やってんだ、俺は…。」


頬に伝う汗を服の袖で拭い、足を止める。


「はぁ…、何か涼しくなるような方法は……。」


若干ふら付き気味の足取りで、更に若干クラクラしている頭で考えながら、左之助は再び歩き出した。

歩き始めて 数本進んだところで彼は名案を思いついた。


「河だっ!」


ということで左之助はそのクラクラしている頭を働かせ、おぼつなかない足取りで一目散にある場所を目指し、走り出した。
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