■novel


□雨宿り
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ふと気が付けば、先ほどまで青々としていた空がどんよりとした雲に覆われ始めていた。


まわりを見れば、そんな空模様を気にしてか道を行き交う人の数がまばらになってきている。


道の脇で、話しこんでいる人。
買い物を楽しんでいる人。
商売をしている人。

誰もが足早に家路に着き始めた。

そんな中、最初に沈黙を破ったのは剣心だった。


「斎藤は、本気なのでござるか?」

「…何がだ?」

剣心が何を言おうとしているのかだいたい察しはついているが、その質問を斎藤は聞き返した。


そんな斎藤を知ってか、剣心は率直に答える。

「左之のコトでござる。」

そぉ話す剣心の瞳は何処か寂しげで、しかし、真っ直ぐに前を向いている目だった。


そんな剣心に対し、斎藤は実に曖昧で、焦点を定めていない返事を返した。

「……さぁな。」



辺りには、いよいよ人の気配がなくなり、そこには、活気の消えたいつもの町並みと2人だけが残された。
剣心は肌に冷たさを感じ、上を見上げる。

「雨でござる。」


そして、ポツリポツリと次第にその滴は多くなり、2人は適当な場所で雨宿りをするコトとなった。


「斎藤は左之のコトを本気で想ってないでござるか?」

剣心は、大きな木の下から水溜まりが出来ているところを見つめながら聞いた。


「なぜそんなコトを聞く?」


冷たく吐きかけられた斎藤の言葉に剣心の表情が強ばる。


「拙者がそんなコトを聞いたらおかしいでござるか…?」

斎藤は胸元に手を伸ばし、煙草を取り出した。ソレを口へ運び、火を付けると、口から白煙を吐き捨てた。

「いくらあいつと仲が良いと言っても貴様には。」
「関係ない、でござるか?」


言おうとした言葉を先に言われ斎藤は、あぁ。と答えた。


剣心はダランと下ろしていた手をギュッと握り、斎藤に振り向く。
「拙者は……、拙者は斎藤の本当の気持ちが知りたいんでござる!斎藤は感情とか表情をあまり表にださないから…何を考えてるのかわかりらないし、聞いてみてもさっきみたいな返事しか…。」


そぉ話す剣心の声はだんだん小さくなる。

「それを知ってどぉする。結局、貴様は何が言いたいんだ…?」
一瞬、困ったように目を反らした剣心だったが、意を決したかのように真っ直ぐに斎藤を見つめた。
「こぉ言うコトでござる。」


次の瞬間、斎藤の唇には剣心の唇が触れていた。斎藤は何が起きたのか分からず、思考は停止し、手にしていた煙草思わず落としていた。雨で出来た水溜まりで煙草の火は、ジュッと音を立てて消えた。


斎藤は目を丸くし、剣心を見る。

「斎藤が悪いでござる。お主がはっきりしたコトを言わないから…。だから、拙者にもまだ入り込む隙間があるのかと…期待してしまうんでござるよ…。」


剣心は、斎藤の胸に手を置き、濡れた瞳で斎藤を見上げる。
雨で濡れたせいか、心境のせいか、青い警官服に乗せられた剣心の手はかすかに震えていた。

雨はいっそう酷くなり、下に落ちた雨粒がいくつも跳ね返り、まるで今の二人の心を掻き乱すかのように、水溜まりにいくつもの波紋を描いた。


斎藤は、そっ、と剣心の頬に手を添える。

「俺は…お前の気持ちに答えることはできない。」

ピクンと肩が揺れ、斎藤から目線を外し、剣心はうつ向いた。

「俺は、お前が言ったように感情を表に出すこともないし、ましてや口にすることなどほとんどない。だから……そのせいで、お前を苦しめていたのなら…すまない。」

剣心は斎藤に背を向けた。

「わかっていたさ。斎藤が拙者にそんな感情を抱いていないことくらい。ただ、斎藤の口から聞きたかっただけだ。」

剣心は目を閉じ、優しい口調でいった。

「そぉすれば、きっぱり諦めも付くでござる。」

「そぉか…。」


斎藤は胸元に手を伸ばし、煙草に火をつけた。

「ただ、斎藤があんなに優しい声で謝ってきたのにはちょっと驚いた。」

剣心は斎藤を振り返り、ニッコリ笑って言った。

「きっと左之は、拙者の知らないお主をたくさん知っているのだろうな…。」
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