■novel


□雨宿り
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斎藤の眼が好きだ。

金色に輝いてる綺麗な眼差し。
時々見せる笑った眼も、人の心を射ぬくような鋭い眼も。
その真っ直ぐな瞳に映るのは、オレだけであって欲しい。


斎藤の手が好きだ。

オレより少し大きくて、力強い。そのくせ細くて、スラッと長い指。
オレの頭を撫でたり、唇に触れたり…斎藤の指や手を感じる度にオレの心はアイツに奪われていく。

斎藤の声が好きだ。
オレよりも少しだけ低い声。くすぐるみたぃにオレの耳元で名前を呼ぶ。それだけで、オレの中の何かが溶けるみたぃに身体が熱くなる。


でも、そんなコトを素直に言えるはずもなく今日も今日とて口喧嘩……。



「お前の頭ゎ阿呆以外の何者でもないな。」

「うるせぇ、お前だって前髪簾みたぃに垂らしてんぢゃねぇか!!この簾頭ぁ!!」

「そぉ言うお前はぐしゃぐしゃな頭だろぉが、トリ頭。」


そぉ、今日も今日とて口喧嘩。
原因は多分、オレ…。


昼飯をたかる為に、斎藤のいる仕事場に行った。
今日ゎ無性に蕎麦が食いたかったから、おごって貰おうと目論んで。

そしたら、あいつが

『書類整理のキリがついたらな。』
って言うから、オレは待ってた。グルグルなる腹を宥めながら。


で、結局蕎麦屋に着いたのは14時前。


おごってもらうんだから、それぐらい我慢したさ。完全に腹ぁ減って、ちょっと気は立ってたけど。


それで、念願の蕎麦にありつけるはずだった!

念願の天ぷら蕎麦に!!!


そしたら……
何か…
売り切れました……って、、、。。。



『お前がチンタラしてるからぁ』
って言うオレの一言から始まっちまったんだ…。




昼間の道をドンタカゴチャゴチャ大きな声で歩いてりゃ、嫌でもその様子は回りの目についちまう。
「いい加減にしろ。たかだか蕎麦一杯。」

「うるせぇ、オレの今日の蕎麦に対する熱意はナァ…」


「また喧嘩してるでござるか?」
聞き覚えのある声と見覚えのある姿。苛立ってるオレの気を引かせたのは

「剣心!!」

「喧嘩するほど仲が良いと言うが…仲が良いのか悪いのか。」

にっこりな笑顔で近づいてくる剣心をオレは味方につけようと考えた。
「仲なんか良くねぇ!!!そんなコトよりも、ちょっと聞いてくれよ、剣心!こいつが…。」

「あぁ〜、左之。悪いが拙者、ちょっと急いでいるでござる。」

オレの前まできて足を止めた剣心はすまなさそぉな顔へと一変し、頭をポリポリとかいた。

「はぁ?オレの話聞いてくれねぇのかよ。」

完全にオレの話を聞いてくれそぉにない剣心に、ガックリして、斎藤の方をチラ見してみたら、

「フン」

と、鼻で笑われた。

「薫殿に買い物を頼まれているでござる。遅くなると後が怖いでござるからナァ…。悪いがこれで失礼するでざるよ。」

ヒラリと手を振ると剣心はスタスタと行ってしまった。



「オレも仕事に戻る。阿呆とは付き合いきれん。」


「えっ、あっ、おい!」

続いて斎藤も。


ポツンと取り残されたオレは、去って行く二人の背中をポカーンと見つめ、すっげぇ虚しい気持ちで長屋に帰った。

きっとこの時の背中の悪一文字は、そぉとぉ沈んだモノだったにちげぇねぇ。



―――――

一方、その頃…。

「おい。何で着いてくる。」

「たまたま拙者の買い物もこっちでござるから。」


斎藤と剣心は同じ道を歩いていた。

斎藤は口に煙草を加え、鋭い眼光を剣心に向ける。

「あの場に居合わせたのも、たまたまか?」

剣心はにっこりと斎藤に笑顔を向けた。


「フン。」


その向けられた笑顔に、斎藤は感情を表すコトもなく、怪訝そうな目を反らした。しばらくの沈黙が二人の間に流れる。
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