■novel


□赤と黒
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秋の夕暮れ、少しだけ肌寒く感じる秋風に吹かれながら、河原を歩いていた。

秋の夕日は燃える様に赤く、この世界を陽色に染める。

それを映す瞳はキラキラと輝き、まるで全てを見透しているかのようだ。

瞼で、手で…覆ってしまえば暗闇だけが残るのに。。。


左之助は、ぼんやり夕日を見ながらそんなコトを考えていた。
そして、その口を開ける。

「夕日見てるとよぉ、何か悲しい気持ちにならねぇか?」

そう話しかけた相手は、口に煙草を加えた長身の男だ。彼は細い目線を夕日へと移した。

しばらく夕日を見つめて、煙草を口から離すと同時に白煙を吐いた。
何も語らないその男に左之助は呼びかける。

「なぁ、斎藤」

そう呼ばれた男は、それでも口を開かず表情を変えるコトなく、煙草を口に運んでいる。そんな様子も気にするコトなく、左之助は再び話し出した。

「夕日ってさ、燃えるみたいに真っ赤だけど…それを綺麗だって言う奴もいるけど、オレは……アレを見てると何でか、すげぇ悲しい気持ちになるんだ。」

左之助は歩みを止めた。その瞳は赤を映し、キラキラ輝いていた。

「きっとアレがが沈んじまったら…次には真っ暗な夜が来るってわかってるからだろぉなぁ…。」

左之助はうつ向き、その瞳を閉じた。

夜は、暗くて静かで…昼間の賑やかさとは正反対に人通りも話し声もしない。只、人に触れていない空気が漂い、温度の感じられない空間が広がっているのだ。

誰かと会って、どんちゃん騒いでいれば、楽しいし、悲しい何てコトを忘れられる。
だけど、そんな時間が終わってしまえば、また、夜と言う世界に引き戻されるのだ。


何で、こんなコトを考えるようになってしまったのだろう…



突然頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、顔を上げる。
そこには、斎藤が立っていた

「阿呆…。」

斎藤はそう言うと、左之助の頬にすっと手を伸ばし、伝っていた涙を優しく拭った。

「あ、あれ…?」

それで、始めて自分が泣いているコトに気が付いた左之助は、恥ずかしくなって、赤くなった目を手で隠すように擦る。


なぜ自分は泣いているんだろう…?

なぜこんなに悲しいんだろう…?

左之助はそれがわからなくて溢れる涙を抑えるコトができなかった。

肩を震わせ、うつ向き泣く左之助を、斎藤はそっと自分の胸に抱き寄せた。

その温かい居場所に左之助はしがみ付き斎藤の背中を強く握りしめた。
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