サカミハ。

□柵越し
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空の澄み渡るような碧に、目を細めた。
 
 
 
 
 
周りに特にこれといって遮る物がないからだろうか。 
 
 
 
 
 
 
 
爽やかな風が裾から入り込み、シャツを膨らませて気持ちがいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は深く深呼吸をした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
柵越し
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
バタン!!
 
 
 
 
 
 
 
屋上の扉が勢いよく開かれる音がしたかと思うと、
 
 
そこから小さな人影が飛び出してくるのが見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…どうしたの?」
 
 
 
 
 
 
 
立っていられなくなってしまったのかそのまま前屈みに崩れ込む相手に、ゆったりと声をかける。
 
 
 
 
 
 
 
 
「はぁ…っ、はぁ……」
 
 
 
 
 
 
 
額に汗を滲ませ、息を切らして座り込んだ三橋が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
大きな瞳を見開いて、こちらを凝視していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「汗びっしょりじゃない。走ってきたの?そんなに急いで…、何かあった?」
 
 
 
 
 
 
浮かべるのはいつも通りの柔らかい笑顔。
 
 
 
 
 
 
だけど三橋の強張った表情は変わらない。
 
 
 
 
 
必死で階段を駆け上がってきたのだろう、
 
止まることのない汗を細い手首でぐいと拭って、ようやく口を開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「さ、かえぐち…く…っ、な、んで……っ」
 
 
「ん?」
 
 
 
 
 
呼吸が整わないのか、言葉の途中でごほっと咳き込み始めてしまう三橋。
 
 
 
 
 
 
あぁ。
 
 
 
そんなに必死になってくれちゃって。
 
 
 
 
 
 
 
すげー嬉しんだけど、
なんか苦しいよ。
 
 
三橋。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「落ち着いてからでいいよ、三橋。なんでって、何のこと?」
 
 
 
 
 
 
本当は分かっているのに。 
 
 
 
 
 
なんで三橋がこんなに必死なのか。
 
 
 
なんで自分なんかのために、
一生懸命に走ってきてくれたのか。
 
 
 
 
 
 
 
俺も大概意地が悪いよね。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ぅ…さか、えぐち、くん……っ。な、んで?
 
なんでっ…。なんでっ」
 
 
 
 
 
なんで。なんで。と。
 
 
 
座り込んで首を振りながら、
 
何度も何度も三橋は言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なんで、そんなとこに…いるっ!…の!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ニコッと笑った俺は。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
屋上の周りを覆う柵を乗り越えて、
わずかなコンクリートの出っ張りに足を乗せていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
足下には真っ直ぐ落ちる五階分の壁と、
 
 
グラウンドが広がっていた。
 
 
 

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