短 想い 心U
□昔々のお伽噺
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寧ろ目立っていた分子供達のリーダー的立場だった。
しかし、その内無邪気な子供たちは私の異常さに気付き、攻撃の対象にしてきた。
周りと全然違う私は攻撃しやすい相手だったみたい。私だけが仲間外れ、私だけが悪者。
子供達は私をいたぶり、大人達は私を鬼の娘と呼び、忌み嫌った。
何か事件があれば私のせい。
何か災害が起これば私のせい。
誰か病にかかれば私のせい。
毎日石を投げられたり、打たれたりした。男の人に襲われなかったのは私がまだ子供だったからだと思う。
そんな地獄のような日々の中で、私を助けてくれたのは母様だけだった。
「あなたは悪くありませんよ。ただ、皆が少しだけ臆病になっていて、優しいあなたに甘えようとしているんです。だから彼らを恨んではいけませんよ。今は辛いけど、我慢すればきっと分かり合える日が来ます。一緒にがんばりましょうね、白姫」
母様はいつもそう言って私の頭を撫でてくれた。
母様も汚れた女と呼ばれ、村人に殴られたり男達に襲われたり、私よりも酷い事をされていたのに、いつも私の事ばかり気にかけてくれた。
でも、こんな生活が長く続く筈もなかった。こんな生活、まともな人間に耐えられる訳がない。
母様は病にかかってしまった。
本来ならば助かったかも知れないが、診てくれる薬師も看病してくれる人もいない状態で母様の容態は日に日に悪くなっていった。
「母様……母様……しっかりして下さい!」
「……白姫、私はもう……助からないでしょう。…………そんな、顔をしてはいけません。 あなたはこれから……一人で……生きていくんですよ。強く……生きなさい」
母様は元気だった頃と同じ優しい笑顔で私の手を握り、そのまま永遠に目を閉じた。
私は完全に一人ぼっちになった。助けてくれる人も、慰めてくれる人ももういない。
「私もこのまま死ぬのかな。早く母様のところに行きたいな」
そんな事を呟きながらずっと家に閉じこもっていた。私はあのままだったら本当に死んでいたと思う。
でも、母様が死んで一週間程したある秋の日に、あの人が現れてくれた。
「おみゃーさん、一人なんかえ?よかったらこの婆ぁと一緒に住まんか?」
突然ドアの向こうから聞こえた老婆の声。母様と雰囲気は違うが、同じ位の優しさを込めた声が聞こえた。
「あなたは、だれ?」
「ほほほ、おみゃーさんの綺麗な瞳と髪が大好きなただの婆ぁじゃよ」
私は恐る恐る扉を開いた。
扉の先には優しく豪快に笑う、そろそろ米寿を迎える位のお婆さんが立っていた。これが、私とお婆ちゃんの出会いだった。
これから数日後、私はお婆ちゃんと一緒に住む事にした。
そしてそれから数年が経った。お婆ちゃんの家は山の中にぽつんと立っていて、村人の目には付かない場所にある。
「白姫。出かけるんかえ?」
「うん。山菜と薬草を摘んで、それからちょっと散歩してくるね」
「ほほほ、栗もちゃんと拾っておくれよ。婆ぁはあれが好きでねえ。そいじゃ気ぃつけていっといで」
お婆ちゃんとの約束で、私は夜の間しか外に出ない事にしていた。それが我が身を守ると、理解している。
昼は村人もこの山に入ってくるし、私の事を自分の母親すらも殺した鬼と言っている人達もいるからだ。
私は月明かりを頼りに山の中をのんびりと歩いた。たまに山菜やきれいな栗をカゴに入れる。
私はこの時間が結構好きだった。お婆ちゃんのお蔭で、母様のいない悲しみも半分になった気がする。
村人に会う事もないので、鬼と呼ばれる事もいたぶられる事もない。
私は鬼と呼ばれるのは嫌いだ。
だって私には、母様が残してくれた白姫という名前がある。
この名前は母様が残してくれた数少ない物の一つだから、鬼等という言葉で上塗りしないで欲しい。
「あれ?」
考え事をしてる間に山の麓の方まで来てしまっていた。ここら辺は村人も来るから気をつけなければいけない。
引き返そうとしたその時、下から小枝が踏まれて折れる微かな音が聞こえた。
「うわぁぁ!!鬼じゃぁぁ!!」
昔見た事のある村人の男は叫びながら村の方へ走り去って行った。
でもその時にはすでに私は家へと駆けていた。
「お、お婆ちゃん!私、見られっ、姿を!村人に!!」
「落ち着くんじゃて。大丈夫じゃよ。ここに居れば誰も白姫を虐めんからの」
そう言ってお婆ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
その言葉通り村人はこの小屋に誰も来なかった。
でも、村人に私の話は噂として伝わっているようで、山を歩くとたまに村人と会ってしまうようになった。でも、その誰もが私を鬼と呼んで逃げていく。
何もしてないのに。
それから数年が経った。
村人はまだ私を鬼と呼んで、今は虐げてるというより畏れているようだ。夜の散歩中に数人でやって来て、石を投げつけてくる時もあったけど、お婆ちゃんの家が見つかる前に必死で逃げた。