硝煙の吸血鬼
□隊長は倒れてる
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隊長は倒れてる
「旦那ー入るぜー」
ジメジメとした地下室の戸を開けると、棺とテーブル、椅子しかない殺風景な部屋が広がっていた。
「旦那まだ寝てるのか?もう夕方だぜ」
椅子には上着とベスト、タイが、机には手袋に帽子とサングラス、そしてジャッカルとカスールが鎮座している。
(服脱いだりするんだ)
超然と欲望のままに生きているのに、アーカードからは生活感というか、生きた臭いがしない。
生きていないからかもしれないが、同じ吸血鬼であるセラスは人と同じ臭いがする。
この部屋の存在を知るまで、アーカードにも私的な部分があることに気付かなかったくらいだ。
「旦那…」
彼の人がいるのは中央の棺の中だろう。床に散らばった空の輸血パックから濃密な血の匂いがする。
(ゴミ箱くらいおけばいいのに)
「旦那ー夜ですよー」
「………」
「だーんーなー」
棺の前に跪き、蓋に手を掛ける。表には出さないが、恐怖と好奇心で胸は早鐘の様に鳴り続けている。
「開けるぜ旦那」
この棺桶を開ける者達は、神の力を宿すサンザシの木か、人の力の象徴トネリコの木で出来た白木の杭を手に手に持ち、眠れる不死王の心臓を狙ったのだろう。死を覚悟しながら。
「っ!?」
黒塗りの蓋は思いの他軽い。滑る様にずれた。
そして、俺は息を飲んだ。
眠り男――ツェザーレより兇悪な吸血鬼は静かに横たわっていた。
紅い目も牙も見えない。だがそのかわりにシノワの磁器と同じ色をした胸元が手が滑らかな肌を覗かせている。
(レアだ!)
恐怖ではない胸の高鳴りに戸惑いながらも、俺はアーカードが起きるまでその姿をずっと眺めていた。
「ってなことがあんたんだぜ!」
「えーっ!?私も見たかったのに何で呼んでくれないんですか!」
「嬢ちゃんはまだ寝てたじゃねぇか。羨ましいだろう?」
「羨ましいですー!」
(でもいつからベルナドットさんってホ○になったんだろう?)
「わはははは!」
end