硝煙の吸血鬼

□無謀
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無謀






休日だと言うのに酒場にも行かず、俺は馴染みの電器屋へ足を運んだ。無論、真っ当にお天道様に顔向けできないような裏街道のだ。
武器商人から買い付けるより足が付きにくい細々とした物を買いに来たが、そこで小さな箱が目に止まった。日本製のそれはバッテリーを内蔵しているのに、手の中に握り込めばわからなくなるほど小さかった。
その利用法に思い至った俺は、その箱と周辺機器を衝動買いした。





激しい雨が窓を叩く深夜。
俺はベッドの下から機械を引っ張り出し、机の上に広げた。椅子に座ってアンテナを伸ばし、プラグをジャックに差し込む。
耳に当てたヘッドフォンからはいつも静かな音が聞こえる。


石の床を歩く靴音。
衣擦れ。
椅子の軋み。


目を閉じれはその情景がありありと浮かぶ。仕掛けた小さな箱が拾い集める音はひどく鮮明だった。


「さすがメイド・イン・ジャパン」


執事に頼まれて主不在の地下室に行った時、俺は盗聴器を仕掛けた。好奇心に負けたとしか言い様がない行動だった。
ただ単純に知りたかったんだろう、あの得体の知れないモノを。恐怖は簡単に好奇心に変わると言うが、あれは本当だ。

アーカードが銃の整備を始める。滑る遊底。弾ける発条。布で丁寧に拭かれていく部品。油が差され、また一つ一つ組み上げられる。

あの吸血鬼が銃の整備を自分でしているのを知った時ひどく驚いた。銃を使う者なら当たり前の行動なのだが、相手がアーカードとなると、どうも結び付かない。
逆に、シャワーを浴びているのには何の違和感も感じなかった。が、よくよく考えてみると、吸血鬼は流れ水を渡れない。風呂はおろか、雨の日に外に出る事さえできないはずだ。セラスはその事実を最近知って『おニューの傘が使えない〜っ!』と騒いでいた。格が違うからだろうか?


とにかく、バレるまではこの盗聴が俺の日課だ。
無謀だとは思うがな。





end



無謀的挑戦365題
001無謀
配布サイト様
Fascinating

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