硝煙の吸血鬼

□緩やかな終焉
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緩やかな終焉




唐突に完璧な闇の中に光が射した。


「久々の満月ですよアーカード」

「………今が何時か分かっているか、ウォルター?」


寝ぼけ頭のままのアーカードの体内時計は日没寸前の6時を示していた。本来なら惰眠を貪る時間帯だ。


「ここ最近は雨ばかりで、まともに満月が出ていませんでしたから。早起きして、見るのも悪くないでしょう?」

「早寝早起きは年寄りの証拠だ」

「若作りには言われたくありませんよ」


棺桶の隙間を覗き込む顔には、年の分だけ無数の深い皺が刻まれていた。
棺桶の隙間から見上げる顔には、皮肉げに歪んだ表情の皺が刻まれていた。


「随分と年を取ったな死神」

「今年で70歳の大台ですからね」

「だが変わらんな執事あの時も今も」

「あなたも変わりませんねアーカード。いい加減起きたらどうですか?寝汚いにも程がありますよ。さあ、棺桶の蓋を開けなさい!」


内側から無数の触手が蓋を閉じようとし、外側から幾筋もの鋼線が蓋をこじ開けようとする。


「そろそろ棺桶ごと切り刻みますよ!」

「貴様では無理だ」


ぎしぎしと軋む音はするが、軋んでいるのは鋼線の方で、蓋自体には傷一つ付いていなかったりする。


「子供ですか!」

「私は寝る」


本格的に二度寝の態勢に入る吸血鬼。諦めたのか、鋼線の拘束が解けた。


「まったく……」

「?」


かわりに隙間から差し入れられたのは2本の腕だった。空間的に有り得ない深さまで手を伸ばし、触手を虫の足を犬の牙を掻き分け、闇にまどろんでいた白磁器の顔を探り当てる。
そして、惚けたアーカードを引き摺り出し、額に軽く口付けた。


「目覚めのキスだ。さあ起きろアーカード。テメェの時間だ」

「唇ではないのか」

「昔ほど柔らかくはないもので」


棺桶の蓋が転げ落ち派手な音を立てた。
吸血鬼の伸ばされた腕は彼にとって昔と変わらぬ執事を抱き寄せ、唇は昔と同じ煙草の味を感じていた。


「おはよう、死神」

「おはよう、吸血鬼」


今日も、おぞましくも幸せな夜の朝が始まる。




end


死に纏わる10のお題
緩やかな終焉
配布元様
―Soul less―

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