硝煙の吸血鬼
□台風
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台風
「枕抱えてどこ行くんだよ嬢ちゃん?」
「こ、こんばんはベルナドットさん。……その、あの……」
「ははーん♪さては台風が怖いんだな」
「仕方ないじゃないですか!怖いものは怖いんです!」
「嬢ちゃんらしくていいじゃねぇか。どれ、お兄さんが一緒に──」
「不潔です!!ノーモアセクハラ!!私はインテグラ様に添い寝してもらうんです!それじゃあ!」
言うが早いか吸血少女は暗闇に走り去って行った。
「…不潔…」
女同士はいいのか?
「最近あーいうの流行ってんすかね?」
「人間の流行を私に聞くかヒューマン?」
あらかじめ知ってでもいない限り、前を横切っても気付けそうもない闇そのものが壁にもたれ掛かっていた。活動時間だと言うのに妙に静かな気配。最近は潜んでいるアーカードに気付く様になったベルナドットでさえ、一瞬見過ごした。
「そりゃそうだ。…まさか旦那も台風が怖いなんて言わないで下さいよ」
「吸血鬼の本能は台風を恐れる」
「………」
「好きにはなれんな」
「さいですか」
「何より、棺桶は運び出させたが地下は水没している」
「この雨ならそうでしょうよ。なんならベッド貸しますよ?男二人にゃちと狭いですがね」
「……安穏と眠れんぞヒューマン」
「旦那が寝るまでお相手しますよ。お手柔らかに」
口角をつり上げて笑う怪異。諦めた様に笑う傭兵。ついばむ様に口付けると、傭兵の姿はかたわらの闇に消えた。
「凄いモノ見ちゃいましたね…」
「正にまさかだな」
角から覗いていたりする怪異の主と下僕。
「……………どっちが受?」
素朴な疑問に無言の手刀が炸裂した。
end