物語

□旅立ち
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波の音
潮の香り
右手に握られた君の温もりが
僕を和ませてくれていた
沈む太陽が僕らを照らし出す
「ありがとう」
君のささやきは波へと消えていった

お互いを確かめるように少しずつ近づいていく
身体を寄せ合い
肩に手を回して
お互いの存在をしっかりと確認していた
「本当に僕でいいのか?こんな僕で・・・」
不意に口がふさがれる
暖かくて柔らかくて
少ししょっぱい君の唇が
僕のと重なりあう
離れたときに目があった
赤くして涙を溜めている
「いいの、君がいいの」
胸に顔を埋める君は
とても儚げで
今にも壊れてしまいそうなほどだった
自然と僕も手を回し
君の髪をなでる
胸のあたりが濡れるのを感じていたが
僕はひたすら君を抱き続けた
「ありがとう」
顔を上げた君は笑顔で
夕日を背にとても輝いていた
差し出された君の手を取り
僕らは浜辺を後にした
大きな荷物を持って
まだ知らない街へと
車を走らせていた
あたりはすでに暗かった
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