物語

□決意
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気が付けば、白い部屋の中で横たわっていた。
周りは騒々しくて、何を話しているのかは聞き取れない。
目は、光に慣れていないらしく、ぼんやりとしか見えない。
ただ、数人の頭が覗き込んでいるのは分かった。
そのうちの一人が、涙を流していた。
涙が頬をつたうのを感じた。
少しずつ、目が光に慣れてきた頃、涙を流していた頭が視界から消えた。
相変わらず騒がしさは止まなかったが、「一命は取り留めました」と「本当にありがとうございました」の二言だけは聞き取ることができた。
その後は、疲れと眠気に捕らわれていった。
頬をつたう涙の後だけが、暖かくいつまでも残っていた。

目覚めると、あたりは真っ暗だった。
騒々しさは一切消え失せ、闇だけがそこにあった。
体は動かない、と言うか力が入らない。
なぜ、自分がここにいるのかすら分からないまま、俺はずっと天井を見ていた。
空が白み始めたのか、カーテン越しにうっすらと明かりが入ってくるようになった。
時間と共に少しずつ体も動くようになり、部屋全体が見えるぐらいになった頃には、首を動かせるようになっていた。
部屋は狭く、自分の寝ているベットと棚が一つあるだけだった。
壁には時計が掛けてあり、5時を指していた。
ベットの横には一人、壁によしかかって眠っていた。
病室にいることだけは分かった。

6時頃にもなると、腕を動かせるまでになった。
何度か、看護師が来て容態を確認していった。
気が付いたが、ベットの周りには点滴が幾つもぶら下がっていた。
ベットの横で眠っている人は、いまだに目を覚まさないでいる。
今となっては、この人が誰なのかもはっきりと分かる。
特徴的な長い髪と、小柄な体型。
いつも一緒にいた唯一無二の親友だ。
顔は見えないが、それでもしっかりと分かった。
彼女はずっと、俺の傍についていてくれていたこと。
手を伸ばしたが、今の状態では頭にすら届かなかった。
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